98 思いがけない再会
そう考えたらモヤモヤした気持ちがストンと納得して落ち着いた。
いいえちょっと言い過ぎた。怒っているけど目的があったかもしれないと思考が冴えた。怒ってはいるけど。
(なに? つまりこれが目的? 私が怒って飛び出すことを想定してる? そんなことする必要ある? 意味が分からない。やっぱりこっちを揶揄っているだけの最低野郎なだけじゃ…)
最低野郎だとは思う。
目的があろうがなかろうが乙女にする所業ではない。次顔を合わせたとき、再び足を踏みたい。一度や二度殴っただけで許せるものか。
今まで何も知らない私の反応を見て面白がっていたのだと思えば、憎さ百倍百叩きだ。百回叩くか踏ませろ。王太子様になんてことをって騒ぐなら呪わせろ。確か足の小指を角に五回ぶつける呪いがあったはずよ。初級編で見たわ。実践してやる。髪の毛寄こせ。
エヴァは擽るわ。笑いすぎて泣くまで擽ってやる。王女殿下になんてことをって言われたら王女殿下とは裸の付き合いをした仲よって叫んでやるわ。嘘じゃないし。
…私王女殿下を脱がせた女なのね。いらないことに気付いちゃったわ。封印しときましょ。
モーリスは…主従だもんなぁ逆らえないわよね。スタンに忠言はしても逆らえないわよね。どうしよう。それでもむかつくから腹に一発決めるくらいがいいかしら。でもアイツ腹筋硬そうなのよね…こっちの拳が痛そう。
そこまで考えて、自分の胸元を見下ろした。というかドレスを見下ろす。
この格好を見たモーリスの反応を思い出す。
(…よし、この格好でしなだれかかってやろう)
むっつりのくせにむっつりと認めないモーリス。むっつりだけど女性に無体は強いない…というか対処を苦手にしていそうなので思いっきりしなだれかかってやろう。対応に困れ。
スタンが何を考えているのかさっぱりわからないが、彼らへの報復を考えることで落ち着いてきた。
落ち着いたからといって夜会の会場に戻ることはできない。予定通り馬車に向かおう。
私は一度だけ深呼吸をして、止まっていた足を踏み出し。
さっと、目の前を何かが横切ったのに気付いた。
小さな影が足下を横切った。
思わずそれを視線で追って…。
「ちょあなんっ」
ちょっとアンタなんでっ! と叫びたかった。衝撃で言葉が全部混ざった。
夜の回廊。初めての侯爵家。誰もいない廊下の隅っこ。
夜会の会場にあったクルミがたっぷり乗った焼き菓子を抱えたリスが一匹。
リスが一匹侯爵家に潜り込んでいた。
(ちょ、おま、はぁ――――!?)
こんな堂々とした食いしん坊なリスが他にいて堪るか!
アンタ! 屋敷にいたはずの食いしん坊リス…なんでここにいるのよ!
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よろしくお願いします!
今回はいいねでリスが食べたクルミの数が増えます。
食いしん坊リス、よろしくお願い致します。