96 窮鼠猫を踏む
「――――っ!?」
あっという間に詰められた距離。
人体の急所、薄い皮膚に触れる熱い肉と硬い歯の感触。
距離を詰めたスタンが、私の首筋に顔を埋めている。それだけでなく、無防備な首筋を食んでいた。食んで…はん!? はあ!? 正気か!?
オフショルダーという、首筋が晒されているドレスでは防御力がゼロ。何度も角度を変えて甘噛みされ、なんの隔たりもなく触れた熱に背筋が泡立って首を竦める。
触れる部分は熱いのに、背筋が泡立ってざわざわする。酷い矛盾。
「なにす、うっ」
食らいつくスタンから逃げようと身をよじるけど、より強く貪られた。
耳のすぐ下で聞き慣れない水音がして、腹の底から熱が湧き上がる。
怒りという名の、熱が。
(ふ ざ け ん な !)
手を引かれ上半身がほぼ密着した状態。片手は私の背中に添えられて動けない。
(だからどうした!)
拘束された両手に力を込めて重心をずらし、スタンに体重をかける。
前に押し返すように。前に前に。
溜まりに溜まった怒りを込めて、重心をかけられて逃げ場のないスタンの足を思いっきり踏みつけた。
そう、爪先を思いっきり!!
積年の怒り思い知れ愉快犯!!
「うっ」
流石に爪先への攻撃は我慢できなかったのか、痛みと衝撃でスタンの拘束が緩む。首筋からも熱が離れた。
その瞬間を見逃さず、右手を振りかぶる。
しかし相手に当たる前に腕で防がれた。右手が拘束される。
(――この程度で諦めると思ったか!)
握られた右手を基点に身体を捻り、思いっきり、左手で相手の頬を張り飛ばした。
バッチ――――ンッ!
華やかな夜に似合わない高い音が響く。
本当は拳で殴りたかったが、握り込む余裕もなかった。無念! でもとどめにスタンを蹴飛ばして距離を取ってやったわ! 蹴飛ばしたスタンより私の方が後ろに下がったけど!!
スタンの白い肌が赤くなろうが、誰もが羨む美貌が歪もうが、知ったことか!
身分差とか、不敬罪とか、王族への傷害罪とか、知るか!
こっちは不同意わいせつ罪で訴えてやるわ!! 首元が無防備だからって触るのを許しているわけじゃないわよ!
庶民と王族の身分差から、相手が罪に問われないって言うなら…よろしい、初心に返るわ。
「絶対呪ってやるからな…!」
怨嗟を込めて吐き捨てて、私はテラスから出て素早くホールを抜け、人の居ない場所を目指して進んだ。
スタンは立ち去る私を見送り、追っては来なかった。
「全部わかっても遠慮がないなぁ」
頬を赤く腫らして爪先を負傷し、蹴られた腹部をさすりながら、スタンは去って行くメイジーの背中を見ながら嬉しそうに笑っていた。
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いいねをありがとうございました。
応援されてメイジーの攻撃力は格段に上がりました。いいね追撃でスタンへの制裁攻撃力がアップします!
おらに…おらに力を貸してくれ…! 状態。
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