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95 信じるのは難しい


 思い出すのはパートナーについて話したとき、大慌てでスタンのところに向かったエヴァ。

 恐らくあの時に、私に何も言わず夜会に出るスタンに仰天していたのだろう。そういえば、今日だって心配そうにずっとこちらを見ていた。


「モーリスは絶対メイジーは怒るから、先に説明しろって言った」


 よくわかってるじゃない。

 というか私じゃなくても怒るわよ。


「ちなみにロドニーは僕が王子だとわかれば相手はイチコロだって言っていたね」


 やっぱりアイツが一番不誠実ね!

 今のスタンといい勝負だわ!


 目をつり上げて憤慨する私の手を握りながら、スタンはゆったり語る。聞き取りやすい、思わず耳を傾けてしまう声音で。


「何も言わずに夜会に連れてくればこうなるってわかっていたし、絶対メイジーには怒られるとわかっていた」

「わかっていて先に言わないなら、完全に面白がっているってことね…!」

「いいや、そうじゃない」


 何が違うのよ。


「だってメイジー。あの屋敷で僕が王太子だと伝えて、君は信じられた?」


 …。

 …すぐには信じないわね。


「君は賢いから色々疑いながら、最終的には信じてくれたかもしれない。だけどあれこれ証拠をもってこいって怒鳴って、王太子から逃げると思ったんだ」

「逃げてなんか…!」

「だから、絶対逃げられないようにしようと思って」


 スタンの手が私の手を撫でる。

 私より体温の高いスタンの手。

 いつの間にか握った拳を解されて、指が絡み合っていた。スタンの長い指先が、指の隙間から手の甲へ伸びて撫ぜる。

 驚いて引っこ抜こうと力を込めるが、びくともしない。慌てて顔を上げれば、至近距離で空色の目とぶつかった。

 目の前にいるのはスタンなのに、獣と至近距離で見つめ合うような緊張感が走る。


 私の中で本能が叫ぶ。

 ――――目を逸らしてはならない。


「ねえ、メイジー」


 目を逸らせば食い散らかされる。

 だってこの獣は、賢いけれど優しくはない。

 今すぐ逃げろと本能が叫ぶ。しかし手が繋がれていて、後退ることもできない。


「王妃の条件って知っている?」

「は?」


 何言ってるんだこいつ。


 予想もつかない言葉が飛び出して、私は気が抜けた。

 思わず間抜けな声が出るくらい油断した。


 気を抜くなと本能が叫んでいたはずなのに。

 油断したところを、獣が見逃すはずなかったのに。


 目の前で、獣は牙を剥き。

 私の首筋に食い付いた。



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次回、貯めていた力を解放します。

スタンが起爆スイッチを押しました。爆発します。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 合いの手を入れたくなる、流れもキレも良い文章。 [気になる点] ほんとロドニー、「顔」と「体」しか見てないな? 性格、無視か? なんでイチコロって思ったのかな??? [一言] よし、殴れ、…
[良い点] スタンが本格的にメイジーを手に入れようとしてきたなあとにっこりします。 メイジーを手のひらで踊らせてるようで、実は手のひらから飛び降りないように頑張ってるんだなあスタン。 [一言] でもエ…
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