86 気になる言動
スタンが好意的なのはわかる。協力的で、味方でいようとしてくれている。
だがあの「好きだな」は、どんな感情に紐付くものなのか。
(受け答えしたからあそこであの会話終わってるのよ。今更あれってどういう意味って掘り返せない! 意識してますって宣言しているようなものよ。してるけど! 言いたくない!)
聞きたいのに聞けない。こんなの初めてだ。
おかげさまであれから何度もスタンと顔を合わせているのに、未だに聞けずにいる。
(なんか悔しい…!)
うぎぎっと唸り声を上げる。何かに負けている気がしてならない。この場合の何かは、スタンだろう。スタンに負けてる。
「おのれスタン…っ」
「僕が何?」
「ぎゃあいつからいた!」
「百面相するメイジーが面白くて、少し前から見ていたよ」
思わず漏れた呻きに返事があり驚けば、いつも通り食えない笑顔のスタンが書斎の入り口に立っていた。彼の手元には庭の花だろうか。色とりどりの花を抱えている。
(…イラッとするくらい似合うわね…)
整えられていない、摘んだばかりの花の束。だというのに美形が持てば特別感が付随するのがすごい。
スタンはクスクス笑いながら書斎に入ってきた。
…待ってモーリスは? いつも背後に控えている背後霊モーリスどこ? なんでスタンが一人で出歩いているの解き放つなって言ったでしょ! 回収して!
近付いてきたスタンは、私が読んでいるマナー本を見て微笑んだ。
「へえ、復習してるの」
「だ、だからなによ」
なんかそわっとするから来ないで欲しいわ。
とか思ったら隣に座られた。この書斎、椅子って長椅子しかないのよ。触れ合うほどじゃないけど近い。
「頑張ってるね」
「スタンが必要って言ったじゃない」
お貴族様って本当に、常にこんなこと気にしながら生活してるの? 教師がいるくらいだから気にしてるんでしょうね。なんで遠回しに会話するの。剛速球でやりとりしなさいよ。
「そう言うスタンは、なに、その花」
「勿論、研究に使う素材だよ」
そういえば呪いに使う花ばかりだったわ。
これなんの呪いに使う素材かしら。流石に見ただけじゃわからないわ。
じっとスタンが抱える花を見た。私の視線の先で、スタンが花を一輪引っこ抜く。
黄色い、花弁の多い花。
その花が私の顔の横に添えられて、花の甘い香りが届いた。
「え、なに」
「うん、メイジーははっきりした色が似合う。深紅とか濃紺も似合うけど…」
言いながら、スタンは私の馬の尻尾みたいに括っただけの髪に花を添えた。
「メイジーは生命力に溢れているから、黄色とかオレンジとか、明るい色も似合う」
「は、ちょ」
ちょっとちょっとちょっと、プスプス花を頭に生けるな!
私で生け花するんじゃない!
「うん、思った通り似合ってる」
「何すんのよ…っ」
なんか頭が、頭が豪華になってる気がする…! 気のせいじゃないわ。スタンが抱えていた花結構減ってるもの!
犯人は満足そうに、にっこり笑っている。
「うん、可愛い」
「ぐぬ…!?」
今そういうのに過剰反応するからやめてくれない!?
裏を感じさせない囁き声で言うのもやめてくれない!?
叫びながら頭を掻き毟りたくなるからやめてくれない!?
でも花に罪はないのよ。花に罪は!
私の頭を生け花にしている最中にスタンの手元からいくつか零れた花が、私の手元に落ちている。私はそれを拾い上げ、無駄に長いスタンの髪を掴んだ。
「いたたたたた」
「こうしてやるこうしてやるこうしてやる!」
「わあすごい、こんな雑に扱われたの初めてだ」
「メイジー、お兄様と何を…」
声が聞こえたらしいエヴァがひょっこり現れる。書斎を覗き込んで、目を丸くした。
花で頭を豪華にした私。そんな私がスタンの髪を三つ編みにしながらざくざく花を飾っているのを見て、エヴァは口元に手を当てた。
「な、仲良しです…」
あーもうアンタも巻き込むからこっちに来なさい!
結局スタンの発言の意味を問い質すことができず、そのまま時間が過ぎて。
夜会の日がやって来た。
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