81 魔女
手にした書類、そこに纏められているのは、早急に調べさせた呪いのブローチの経路。
ロドニーの発言通り、宝石自体に問題はないようだ。むしろこちらの目を欺くために高級なエメラルドを使用している。
ブローチの土台も一見は金細工だが、よく見れば違う。「塔」の解析結果には木材と書かれている。
呪いで木材と言えば、有名なのは呪いの枝。メイジーが手に入れようとしていたチャンル学園に聳え立つ大樹。
厳重に管理されているが…管理されているからこそ、誰が使用したのかすぐわかる。
制作者と思われる魔女の名を見て、スタンは失笑した。
「懲りないな。以前と同じ魔女だ」
「まだ懇意にしていたんですかあの魔女」
「むしろ今ではこの魔女しか相手にしてくれないんだろうね。根回しは済ませたし、充分忠告したつもりだったのだけど…」
エヴァを呪った相手がわかっていて、何もしないスタンではない。
元凶は勿論だが、関わった者たち全てをあぶり出して制裁していった。見せしめも兼ねて盛大に。しかし公にならぬよう慎重に。
元凶と繋がりのある魔女全て、手を切るように丁寧にお願いして回ったのだが…。
「足りなかったみたいだ」
冷然と微笑むスタン。
あまりの冷たさに、ロドニーはティーカップで暖を取った。暖を取りながら、取り敢えず意見を述べる。
「最近は公爵も見逃すことが多いので、それも関係しているのでは」
「うん、困ったよね。ついこの間まで厳格に注意していたのに、ここのところ妙に甘い」
今まで、元凶を諫めていたのは公爵だった。
エフィンジャー公爵。
厳格だった彼が、最近甘くなった。
不抜けたと言っても過言ではない。まるで爪と牙を抜かれた様に、以前の鋭さがなりを潜めた。
普段はそうでもないが、かの魔女への対応ががらりと変わった。取り締まる相手がいなくなり、調子に乗った魔女が強力な呪いを送ってくるようになってしまった。
エヴァに呪いを送っている元凶は別だが、実際に送っているのはあの魔女だ。そちらを対処すれば元凶は無力化されるが、その元凶に魔女が守られていて手が出せない。
それを問題視して、公爵とは連携を取っていたはずなのだが…いつの間にか彼は寝返っていた。
「愛妻家の公爵に限ってあの魔女の色香に陥落したとは思えませんが…何かしらの取引があったに違いありません」
「魔女が誑かすのは色香だけじゃないからね。悪魔も騙す交渉こそが魔女の本領さ。善き魔女ならともかく、害ある呪いに手を出す悪い魔女なら特に」
さもありなん、と頷くスタンに、モーリスは不可解そうだ。
「あの公爵が魔女の甘言に負けるとは思えないが…」
「しかし実際融通を利かせているようだし…何らかの形で弱みを握られたのだろうね」
その弱みをスタンも見つけたと思っていた。
波打つピンクゴールドの髪。気の強そうな臙脂色の目。薄汚れて見窄らしいのに、胸を張って立つ堂々とした姿勢。
初めてメイジーを見たときは公爵夫人の絵姿と酷似した容姿から、彼女こそが公爵の弱みかと思ったが…反応がないことから、魔女に握られた弱みではないのだろう。
しかしいつ見つかるかわからない。スタンが彼女を保護したのは、これ以上公爵の弱みを魔女に握らせないため。
…だったのだが、メイジー本人が公爵に恨み辛みをぶつけようとしているのだから世の中何が起るかわからない。
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