77 一抹の
「…なんとなくわかるけど、呪いを解いたのはロドニーよね」
朦朧とした意識の中、聞こえてきたのは彼の声だ。
二重に響く声。他に居ないわあんなわんわん響く声。
正直、痛みに耐えている中で聞こえる声としては殺意しかない。平常時でもわんわん耳に響いて頭痛がするのに激痛の最中。その声で踊り出しそうなほど軽快に、意味の分からない呪文を繰り返された。
殺意しかない。
…一応、一抹の感謝はある。
「うん、呪い返しが得意だと言っていただろう? あれは冗談でも驕りでもなく本当のことでね。彼は発動している呪いを吸い寄せ、対象から切り離すことに長けている」
「それってとんでもなく役に立つんじゃ?」
「とんでもなく役に立つ。アイツがまだ生きているのはあの能力があるからだよ」
「有能な奴だったのね…」
「まあ、それしかできないんだけど」
「一部に特化しすぎじゃない…」
役に立つけど出世しないのは、本当にそれしかできないからね。
「ちなみに呪い返しのときに対象に触れる必要があるんだけど…」
「察した」
失笑に近い表情で言葉を切ったスタンに、何を言いたいのかすぐ察したわ。
つまり必要以上に触ったってそういうことね?
呪い返しに託けてペタペタ触った訳ね?
乙女に。
一抹の感謝が粉砕した。
やはり殺意しかない。
…次に会ったらぶん殴るとして…ロドニーの話から気になることができた。
呪い返しはその名の通り、呪いを返す。
初級編に書いてあったわ注意事項。人を呪うと何が起きるかって注意事項に書いてあったわ。
正攻法で呪いが解けなかった場合。呪いは術者に返る。
つまり命に関わる全身が筋肉痛になる呪いは、かけた本人に返っている。それも、倍になって。
それだけじゃない。
「それで…これは誰が、誰を呪ったものだったの」
聞いておいてなんだけど、答えの半分は察しがついていた。
だって、そう考えたら、あの子があれほど泣く理由もわかる。
スタンも私が察したのをわかっていたんだろう。誤魔化すことなく告げた。
「狙われたのは、僕の愛しい妹…エヴァだ」
やっぱり。
…というかそれ以外あるわけがない。そもそもあれは、エヴァに贈られてきた品だったんだから。
「なんでエヴァが呪われるのよ。可愛いから? 可愛いからなの?」
「可愛いは罪だけど、呪われた理由は可愛いからじゃないんだ。可愛いけど」
「お前らなんでそういうところは意見が一致すんの?」
モーリス煩い。一応真剣に言っているのよ。
可愛いは正義だけど罪でもあるんだから。
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