76 侮っていた
「納得いかないかもしれないけど、筋肉痛を侮らない方がいい」
呆然とする私に、スタンは真面目な顔を崩さない。
「人間の身体は筋肉だらけだ。当たり前に使っている呼吸器官。内蔵と筋肉だって繋がっている。その全てが動く度に痛むんだから、想像を絶する痛みになるよ」
私の考えている筋肉痛と規模が違う…!
「あのままだと生きているだけで痛みに苛まれて気が狂っていたかもしれない。間に合ってよかった」
そう言って、仄かに笑みを浮かべる。
いつもと違う微笑みに…大袈裟だと言い切れなくて、私は口を噤んだ。
だって本当に痛かったし…途中記憶がない。
(気絶するほどの筋肉痛…)
筋肉痛と言われたら軽視しがちだが、本気で全身の筋肉が悲鳴を上げていた。
しかも呪いだからずっと続く。終わりがない。
(確かに長く続いたら気が狂うわ…)
お風呂に入って心地よかったのは、全身の筋肉が温められて弛緩した効果もあったかもしれない。
まさかスタンはそこまで考えてお風呂を勧めたのだろうか。
どこまでが計算なのかわからない。
それにしても、全身が筋肉痛になる呪いだなんて…聞くだけだとたいしたことなく聞こえるけど、実際に呪われるとうっかり死にそうな威力だわ。
私が実行しようとしていた呪いも、たいしたことはないと思っても呪われると威力が全然違っていたりするのかしら。
思い出すのは田舎町の呪い師。ケビンはよくこう言っていた。
『人を呪わば穴二つ。福音があるからこそ、実際に誰かを呪えるからこそ…よく考えて行動しなくてはならん。人を呪えば、それは自分にも返って来ることを忘れてはいけない』
幼い頃から、福音があるとわかってから度々声を掛けてくれた呪い師。
祖父のような、師匠のような…父親のような人。
『メイジー』
温かみを持って。
『それ以上はいけない』
厳しく。
『呪いは言葉と同じ。届いてしまえば取り返しがつかない』
踏み外してはならないと、諫めてくれた人。
(ごめんねケビンじいさん)
私を止めた田舎町の住人達。
(呪われるって、こんなにしんどかったのね…)
…しんどいってわかったから、今後絶対確実に、特定した奴だけ呪うことにしよう。
冤罪やとばっちりでこれは辛いわ。
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