75 呪う前に呪われた
「それで、一体何があったの」
仕方がないのでそのまま話を促した。私がこの体勢を受け入れたと気付いたスタンは小さく微笑んでから、モーリスに視線で合図を送る。モーリスは頷いて、足下に置いていた大きな鞄から小さな箱を取り出した。
その箱には見覚えがある。
空色の、イヤな感じがした贈り物。
(…あれ? でも…)
その箱から、以前感じたイヤな空気は霧散していた。
「メイジーは賢いから、多分気付いていると思うけど…この箱に入っていたブローチは呪われていた」
やっぱりそうだ。
あれが、呪い。
「ロドニーの声が二重に聞こえるということは、メイジーの福音もそれなりに高い。君は無意識に、ブローチに付着した呪いを嗅ぎ取って違和感を覚えたんだろうね。ブローチに付随していた呪いもそれなりに強力で、ブローチに触れた者を強制的に呪うものだったから」
「今までこんなことなかったけど」
「そもそも呪われた品と出会ったことがなかったんだろうね」
それもそうだ。
私は今まで田舎町を出たことがなかった。田舎町にも骨董屋はあったが、どちらかと言えば修理屋だった。修行中のカロル三十二歳はなんとか繋ぎに嵌まっていたわ。何繋ぎか忘れた。
呪われた品に出会ったことがないのだから、戸惑っても仕方がない。
「ブローチを見たとき、どんな風に感じた?」
「…ブローチというか、箱から黒い汚れみたいなのが見えてすごくイヤな感じだったのよ」
「へえ、隔たりがあっても感知したんだ。直接視認しないとわからない人が多いから、メイジーは珍しいタイプかもね」
「こんな防御力で防げるモノ? 空気汚染に近いわよ、あれ」
「空気汚染」
「呪いの視認をそう表現したのはお前が初めてだよ」
モーリス煩い。
「呪いは『直接触れて発動する』タイプだったから、防御力が低くても紙だろうが布だろうが間に挟めば発動しない。メイジーはエヴァが触れようとしたとき、箱を振り払ったと聞いた。そのとき指先がブローチに擦ったんだろうね。それで、ブローチの呪いがメイジーに降りかかった」
「…全身が軋むように痛かったわ。一体なんの呪いだったの」
右手を持ち上げて、軽く握ってみる。この動作もできないほど身体が軋んでいた。
呪いの発動条件は『ブローチに触ること』
なら効果は?
呪いを受けたメイジーの身体に何が起きたのか。
スタンは真剣な顔をして、告げた。
「全身が筋肉痛になる呪いだよ」
「…は?」
「全身が筋肉痛になる呪いだよ」
「…は?」
「何度聞き返しても変わらないぞ」
は?
あの激痛が筋肉痛ですって!?
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