73 なんでもいい! 風呂に突っ込め!
「突然メイジーが全身の痛みを訴えて倒れて…お医者様は原因不明だというし…もし身体に異変があったらどうしようって…」
怪我じゃなくてよかったとほろほろ泣くエヴァの目は真っ赤だった。私が倒れてからずっと泣いていたらしい。
泣き続けるエヴァにどうしたらいいかわからなかった私は、出入り口を突破されてオロオロしていた侍女さんと目が合った。
ええい、どうにでもなれ!
私はざばっと湯船から上がって、めそめそしているエヴァに抱きついた。
と見せかけて、侍女さんに訴える。
「エヴァを脱がすの手伝って!」
「え」
「これだけ濡れてたら着替えるしかないでしょ! これだけ泣いたら顔も洗わないと大変なことになるわよ! もう今すぐお風呂に! 入れるの! さあ! 脱げ!」
「えっ」
手子摺ったけど身ぐるみ剥いでお風呂に突っ込んだ。
ほろほろ泣いていたエヴァは、目を白黒させながら私の隣でお風呂に浸かっている。
よし泣き止んだ…焦ったわ…。
エヴァの強ばっていた身体も弛緩して、涙も止まって万々歳。目元はしっかり冷やさないとだけど、顔を洗うミッションは成功。
満足げな私と対照的に、落ち着きを取り戻したエヴァはどんどん小さくなっている。
「お、お騒がせして大変申し訳ございません…お恥ずかしい…」
「此方こそ心配をかけたわね…ええと、よくわかってないけど私は元気よ」
「本当によかったです。急に倒れて…少し動くだけで痛みを訴えていたので、異常が残ったらどうしようって…」
「ああもう、大丈夫だってば! 泣かないの!」
隣でぷるぷる震えるエヴァの剥き出しの背中を軽く叩く。エヴァは必要以上にびっくりして飛び上がった。
もしかしなくても誰かと一緒にお風呂入るの初めてかしら。私はそもそもお風呂の習慣なかったけど、エヴァって使用人に洗って貰う側の人間よね。それとこれとは話が違ったりする?
(…でもなんでエヴァがここまで気にしているのかしら)
確かに私は倒れたけど、それを何故号泣するほど気にするのか。
聞きたい気持ちになったけど、質問をなんとか呑み込む。
せっかく泣き止ませたのに、また泣いてしまったらどうしたらいいかわからないわ。かわいいアイドルナディアちゃんだって一度泣いたら手が付けられなかった。誰かを泣き止ませる絶対的な方法なんかないんだから。
スタンが説明するっていうんだから、面倒な説明は全部スタンがすればいいのよ。
「そんなに気になるならじっくり確認すればいいわ。私は大きな事故も病気もせず健康的に育ったから変な痕も特にないわよ」
言いながら湯船の中で三回回る。ワンとは言わない。
「ええ…メイジーはとても健康的で、細いだけの貴族令嬢とは違った魅力が…」
言いながら、私の胸元を見て泣きそうになるエヴァ。
「貴族令嬢は…皆細くて…特に腰回りを気にしていて…」
私のくびれを見てめそ、と半泣きになるエヴァ。
ちょっと、さっきと種類の違う涙を流さないで!
私だってお淑やかなご令嬢に憧れる普通の庶民なんだからね!
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