70 痛みに耐える中、それは苛つく
(痛い…)
全身を突き抜けるような痛み。
小さく身動ぎするだけで、指先を動かすだけで全身に走る痛み。呼吸する度に肺が伸び縮みする僅かな動作ですら痛みを伴う。生きているだけで全身が痛い。
何より。
(痛いし…うるさ…っ!)
ギシギシと全身が軋むような音がする。
実際に軋んでいるわけじゃない。そんな音が大音量で響いている。耳元で鳴りびく音で頭痛すらしてくる。全身の痛みとは違う頭痛。鼓膜が破けてしまいそうな騒音。
(なんなのこれ…頭が痛くて吐き気がするし、呼吸だけで全身が痛い…!)
細かいことが考えられない。痛くて気持ち悪くて煩くて痛い。とにかく痛い。痛い。痛い。ひたすら痛い…!
(お母さん…)
目元が熱い。苦しい。寒い。
(お母さん…っ)
痛みで頭がチカチカする。火花が散って、何も見えない。
母を求めて過った温かな笑顔。温度の感じられない赤い部屋。
探して探して無力感を味わって、怒って恨んで憎んで呪って。
呪って?
『それ以上はいけない』
しわがれた声が何か…言っていた気が…。
『呪いは「あー、テステス。失礼します。此方へどうぞ此方へどうぞ。くるりんくるりんちょいちょいちょい」
なんか思い出しそうだったのに間抜けな声に遮られた。
目を開く。目を閉じていたことに気付いた。まつげが涙で濡れて、視界がぼやけている。
咄嗟に目元をこすろうと手を動かして、全身に走る痛みに呻いた。
「あぐ…っ」
「くるりんくるりんちょいちょいちょい。くるりんくるりんちょいちょいちょい」
(なんか聞こえる…なんか聞こえるわ…この絶妙にイラッとくる…二重に聞こえる声は…!)
何を言っているのかよくわからないけれど、よくわからない言葉と共に全身の痛みが引いていく。嘘みたいな話だが本当に痛みが引いていく。
ギシギシと煩かった音は、二重に響く声がする度打ち消されるように消えていった。
「くるりんくるりんちょいちょいちょい」
そのかけ声みたいなのはなんとかならないの。
痛みに呻く中で聞こえてくる言葉として最低なんだけど。ひたすら苛つくんだけど。
「はいちょっきん!」
「いったぁああああああいっ!」
最後のかけ声と一緒に、背中から頭にかけて最大に痛いひきつけが来たんだけど!!
あまりの痛みに、私は飛び起きた。
「何すんのよ!!」
「ハイこの通り、元気なメイジーさんです」
「いつ見ても詐欺みたいな現場だな」
「よくやったロドニー。メイジー、まだ辛いだろうから横になって」
「えっ」
え?
飛び起きた私は、私が使用している客室に居た。その客室の寝台の上でいつの間にか布団の中に寝かされている。
飛び起きてはだけた布団。呆然とする私。そんな私を見ている三人の男。
さっきまで居なかったはずのスタン、モーリス、ロドニーが寝台の横に佇んでいた。
何が起こったのかよくわからない…わからないけど。
「未婚女性の寝室に男だけで入るな!」
「非常事態だぞ免除しろ!」
「うん、間違いなく元気なメイジーだ」
間違ったことは言っていないわよせめて侍女でもいいから一人女性を連れて来なさいよ!
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