68 届け人不明のプレゼント
私の言葉にクスクス笑ったエヴァは、嬉しそうに微笑んだ。
「メイジーには、いつも話を聞いて貰って…なんだかお姉様みたいです」
「お友達から親密度が増したってことかしら」
「ふふ、そうですね。いつまでも居てくださって構いませんよ」
「それは庶民として戻れなくなるから…」
楽を覚えると、大変なのよ。働くの。
「というか貴方の護衛はいつ帰ってくるのよ」
一応、護衛が帰ってくるまでという約束でここに滞在していたのよね。ちょっと忘れかけていたけれど、まだ帰ってきていないってどういうことなの。
私の問いかけに、微笑んでいたエヴァはふっと達観したような笑みをみせた。
「いつに…なりますかね…」
「なんで遠い目をするの…」
ここに来てたくさん、見たことのない表情をするじゃない…。
ねえちょっと、その護衛の人帰って来るのよね?
大丈夫?
「ご歓談中失礼致します」
そのとき、つつつと侍女が近付いてきた。
あれすごいわよね、足音が全然しないの。高い絨毯が足音を吸収しているとしてもすごいわ。
近付いてきた侍女は高級なお盆に小さな箱を乗せ、こちらが見やすいように軽く掲げてみせた。
「こちら、次の夜会でお嬢様に身につけて欲しいと贈られてきたのですが…差出人が書かれておらず、心当たりはございますか?」
「わたくしに?」
そう言われて一緒に覗いた小さい箱は、どうやらアクセサリーが入っているようだった。
空色の箱にピンクのリボン。
空色の箱に、うっすら白い雲が描かれている。
その雲がどことなく、羊に見えないことも、ない…?
…なくもない…?
いや、どっちだこれ。
「心当たりはないけれど…カードもないのかしら」
「ええ、此方のみです」
「念の為中身を確認して頂戴」
エヴァも箱の雲みたいな部分を見ていた。
心当たりはないと言いながら、ちょっとそわそわしているのはピーター様の家紋が「羊」だからかしら。
秘密の恋人だから、こういうこっそりわかるかわからないかのラインで攻めている可能性があるのね。
侍女もそれをわかっていて、エヴァに確認させたのかしら。私が居るときに持って来たのは私とエヴァが何の話で盛り上がっているか周囲がちゃんとわかっているからかしらね。この家だと秘密の恋人は公然の秘密だし。それでも漏れ出ていないんだから、情報漏洩なしってすごいわ。漏洩していないわよね?
さっき匂わせとかお揃いの品とか話していたけれど、その必要もなかったかもね。
だとしたら、とても微笑ましいというか。
でも何故かしら。
――――これ、すごくいやな感じ。
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