67 心の支えに一品
疑問に思ったけれど、聞ける空気でもないのよね。
一応、読むわよ。私も、空気を。
エヴァは優美なカップを持ち上げて、長いまつげを伏せた。
物憂げな表情って言うのかしら。十五歳の少女なのに、大人のような顔をする。
「…この夜会にピーター様も参加なさるらしく…」
「うん」
「親に相手を見繕ってこいと言われたらしく…」
「へえ…?」
秘密の恋人ってこういうとき厄介ね。
エヴァはきゅっと肩をすくめている。もしかしてさっきまでテンションが高かったのは、不安を吹き飛ばそうと頑張っていたのかしら。
「ピーター様は、わたくし以外を選ぶことはないと仰ってくださいました」
中々言うじゃないか。ふっくらピーター様いい男ね。
「ですが、決定権を持つのはお父様で…」
家長が決めるって奴ね。
庶民もそういうところあるわ。どこも変わらないわね。
「どうしましょう…この夜会でピーター様の素晴らしさに気付く女性が現れて、ピーター様が横から奪われてしまったら…!」
「そういう心配なのね」
なにげにピーター様は自分の物っていう認識はあるみたいね。いいことだと思うわ。
「そ、そんなことになったらわたくし、わたくし…!」
「うんうん」
「メイジーを見習って、相手を呪ってしまうかもしれません…!」
「藁人形作る!?」
「勧めないでください…!」
なんでよ! 呪うっていったじゃない!
でも外見がどうあれ、穏やかで誠実な男はもてると思うわ。エヴァの心配も尤もね。
「こういうときはあれね…匂わせよ…!」
「匂わせ…?」
「牽制のために、明言できないけど私には相手が居ますってこっそり匂わせることを言うわ」
手作り装飾店経営、オスカルおじさんが教えてくれたわ。事情があって恋人の存在を隠しながら、心に想う相手が居ますって主張するためにある言葉だって。
たとえばその人の色のアクセサリーをつけるとか、お揃いの何かを身につけるとか。
ガチの宝石を身に纏えば匂わせではなくなるので、手作りのお揃いとか玩具の指輪などをおすすめされたわ。ビーズで作る指輪とかイヤーカフとか、ちょっとした工夫がいいらしいわ。
さっきドレスのデザインでパートナーとの色合わせがどうとか言っていたし、貴族にも通じる概念だったみたい。エヴァは納得した顔をして、すぐ戸惑うように視線をさ迷わせた。
「で、でも秘密なので噂になるわけには…」
「全くのお揃いじゃなくても…お互いの心のよりどころに何か持つのもいいと思うわよ」
「…!」
匂わせとは言ったけど強制じゃないし、二人で話し合えばいいと思うわ。
だけどお互いに、それがあれば心を強く持てるって揃いの何かを持っていてもいいと思うのよ。
「…それは、確かに、欲しいです」
「ならピーター様にも相談してみなさい。むしろ向こうの方が、こんなに可愛いエヴァを別の男に盗られるんじゃないかって心穏やかじゃないはずよ。モーリスもあれで顔は良いんだから」
「ふふっ」
そう、ワイルド系って言うの? 荒削りな美しさを持っていると思うわあの男。
むっつりだけど。むっつりだけど。
田舎町の愉快な住人達
装飾店 オスカル
~推しと同じ色、身につけたいだろ~