63 ここだけは譲れない
もう間違いなく、スタンは愉快犯。
此方の様子を窺いながら、火に油を注ぐような発言をしては爆発を楽しむ愉快犯。だけど爆発させたあとちゃんとフォローするから憎めない。定期的に一発叩き込みたくなるけど、それで許してしまいそうになる。
まだ一発入れられたことはないんだけど。いつかぶん殴ってやりたいわ。
そう、スタンは愉快犯。
言わないと決めたら、きっと言わないわ。こっちが怒ったりする様子すら楽しそうだから、本当にそう思っているんだろうけど…。
私は腕を組んで、胸を張って、眦をつり上げてスタンを見上げた。
「一つだけ教えてちょうだい」
「なにかな」
「その思惑、エヴァとピーター様によくない影響はないでしょうね」
「メイジー…」
スタンが楽しむためだけに、可愛い恋人達が傷つくようなことがあるなら全力で暴れるわよ。
私は目的があって、それをスタンに助けて貰う形になったけど…その所為でエヴァが悲しい思いをするなら、たとえ大金を支払うことになっても全力で呪うわ。
だって、泣いちゃうじゃない。
そんなことになったらエヴァが泣いちゃうわ。
女の子が泣いちゃうのよ。
何を投げ打ってでも阻止しなさいよ。
私の言葉に、スタンは夏空のような目を見開いて…しっとりと、染み入るように微笑んだ。
「大丈夫」
静かな頷き。
混ぜっ返して明るく誤魔化すようなこともなく、スタンは迷い無く頷いた。
そんな彼を見上げ、組んでいた腕を解いて腰に手を当てる。
「信じるわよ」
スタンは胸に手を当てて、一歩足を引いた。軽く膝を折るように身を屈め、メイジーと視線を合わせる。
「ああ、信じてくれ」
近くなった視線。
私の挑むような臙脂色と、全てを受け入れる空色がぶつかり合った。
いつものように微笑んでいるけれど。
じっと私を見つめる目は、意外なほど真摯に感じた。
「わかったわ。なら、私のパートナーはアンタよ」
勢いをつけてスタンを指差す。
鼻先に突きつけられた指先に目を丸くしたあと、スタンはおかしそうに一度喉を鳴らし。
「…ありがとう」
嬉しそうに、笑った。
…。
…なんか一瞬呼吸し辛くなったのはなんでかしら。