62 誤解の芽は摘め
「…何があったの?」
「ええと…」
戻って来たエヴァは、さっきまでの私みたいに星空のようにキラキラした目をうろつかせた。
どうしたのかしら。
そんなエヴァの手を取って、スタンが楽しげに微笑む。
「いつも夜会に出席するときは、僕がエヴァのパートナーを務めていてね。今回僕がメイジーのパートナーをするって聞いてびっくりさせちゃったみたいだ」
「そうなの?」
「えっと、その…そう、そうなのです…」
しょぼんと肩を落とすエヴァ。
なんでそこまで落ち込むのかしら。
「今回は、モーリス様にパートナーを頼むことにしました…」
「え、ピーター様は?」
「ぴっ」
パートナーって異性に頼むものよね。兄を頼れないならここぞとばかりに想い人に頼めばいいんじゃないの。
そう思ったけれど、エヴァは驚いた鳥みたいな声を上げて真っ赤になり、必死に首を振り出した。横に。
よくわかっていない私に、スタンがしみじみと首を振る。
「秘密の恋人だからねぇ…まだ彼とエヴァの付き合いを知られるわけにいかないから、パートナーには選べないんだ」
「ちょっと、ならモーリスじゃ駄目でしょ」
駄目でしょ。誤解の元にしかならないわその組み合わせ。
「よくわからないけどパートナーが重要ならいつも通りスタンと組みなさいよ。兄妹なら何の問題もないわ。でもってモーリスが私の相手をするといいじゃない」
私は夜会に参加できればいいんだから、パートナーにこだわりはない。
「お前、俺に誤解されると困る相手がいるとは思ってないんだな」
「いたらエヴァの相手を引き受けるわけがないでしょ。なによいるの? 夜会っていろんな人が顔を出すところにこんな可愛い子と一緒に出ていいって認める清廉潔白なお相手がいるっていうの? いないでしょ」
「いないが…」
「何その葛藤する顔。私の相手が不満ってこと? 足踏むわよ」
「踏み抜かれそうだ…!」
護衛なら避けなさいよスタンなら避けるわよ。
じりじり踵を鳴らしながら近付く私。腰を低くして距離を測るモーリス。
こっちは真剣なのに愉快なやりとりだと思ったらしいスタンは小さく震えながら言葉を続けた。
「普通はそうするんだけど思惑があるからね」
声が震えているわよ。笑いの気配を隠しきれてないわ。
「その思惑を話せって言ってるのよ」
「言ったら楽しくないだろう?」
この愉快犯!




