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57 わりと似合う


 公爵家を引きずり出すことしか考えてなかったわ…!

 これじゃあ公爵家を引きずり出せても、身の破滅待ったなしじゃない…!


「公爵家の悪事が白日の下に晒されたらその場で私の罪状が白紙になったりしないかしら!?」

「情状酌量の余地ありと判断されたら軽くなるかもしれないけれど、公爵家がメイジーの母親に何をしたのか不明なままなんだろう? 悪事を働いたとは限らないのに賭けに出るのかい」

「ぎぎぎ…っ!」


 感情的には、公爵家がお母さんに何かしたと確信しているけれど、所詮感情論。状況証拠だって十分じゃない。私はあの日あの場所で何が起こったのかを把握できていない。

 もしかしたら大暴れしたのはお母さんで、あの血痕は公爵家の誰かの物の可能性だってある。

 絶対ないとは思うけど、私の母親だもの。いざという時の爆発力でそこら一帯は焦土に成り果てるだろう。娘の私が言うんだもの、間違いないわ。


 私はお母さんを連れ去られたと思っているけれど、万が一大暴れしたお母さんを連行したっていわれても反論しきれないわ。ないとは思っているけれど、ないとは思っているけれど!

 でもじゃあ、私が想定していた流れに無理があるってことなら、どうすれば。


「ばれないように呪って相手を衰弱させてから乗り込むしか…!」

「呪いに拘るの?」

「なによ! 呪いは諦めろっていうの!? でも身分差を気にせず相手にダメージを与えるにはこれしかなくない!?」

「ダメージを与えてどうするのさ。メイジー一番の目的は母親の安否確認だろう?」


 そうだけど、あわよくば悪夢にのたうち回って欲しいわ。


 だけど一番の目的はお母さん。そのためには、なんとか公爵にあの日のことを吐かせなければ。

 でもどうやって。


 身分差を気にせずに顔を合わせて相手を問いただせる場所って、裁判所以外にある!? お前の罪を数えろってぶん殴れる場所はどこ!? ちなみに私にも前科がつくけど覚悟の上よ! 支払いのことは知らなかったから全然覚悟できていないけど!


「一か八かじゃなくて、僕に賭けてみる気はある?」


 頭を抱えてテーブルに突っ伏す勢いだった私に、相変わらず余裕たっぷりの愉快そうな男の声が降ってくる。

 顔を上げれば空色の目を弓なりに歪ませて、泰然自若に構えていた。


「僕に考えがある」


 そう言って笑ったスタンの顔は、夜の暗闇も手伝って、とてもあくどかった。


 …アンタ、悪役っぽいの似合うわね。


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エンジェライト文庫より 発売中!

祀花よう子先生の美麗なる表紙が目印。

挿絵(By みてみん)

よろしくお願い致します。

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