55 呪い専門の裁判所
単純に害をなす呪いは取り締まりの対象だが、それ以外の呪いも取り扱いが厳重だ。
呪いの儀式は国が取り締まっていて、呪い師や魔女でなければ行使してはならない決まりとなっている。
というのも呪いは一つかけるだけで気力を消耗し、繰り返すことで心身を損なうと調査結果があるためだ。プロに任せるべき作業。
だから魔女でない私が誰かを意図して呪うのは、立派な犯罪行為。
知られれば捕まって、どういった意図で呪いに手を出してしまったのか調査が行われ、裁判が行われる。
情報を精査するため、被告の事情は調査される。そう、どうして呪ったのかを国が調査する。
私の目的は、呪って、捕まって、調査されること。
警備団や騎士団に取り締まられて、呪いを行使するに至った経緯を国に調べてもらい、あの日あの場所あの馬車の中にいた誰かを引きずり出すこと。
お母さん失踪の実態を、明るみに出すことだ。
「田舎町から王都に出てきたのは、町の人たちに止められたからかな」
「ええ、田舎町の住人達は私を取り締まるんじゃなくて止めようとするから振り切って飛び出してきたわ」
彼らはメイジーが何を考えて何をしようとしているのか察して、おかしなことは考えるなと諭してきた。特に呪い師のケビンが正座で説教をしてきたけれど、本能に従って飛び出した。
王都に来たのは、なんとなく取り締まりが厳しそうだったから。治安の問題的に、騒げば捕まる確率が上がりそうだったから。
だから念入りに呪いの方法について調べて、大がかりに慎重に、確実に効果が出ると噂の呪いの枝を使用してあの家紋を持つ家を呪うつもりだった。捕まることを前提として動いたので、初対面のスタンたちが警備団を装ったときは予定より早いとしか思わなかった。
「酒場で暴れ猪だったのは、問題児になって警備団に目をつけて貰いたかったから?」
いや、セクハラ野郎に慈悲はないって撃退していただけだ。
…。
あれ、その手が?
もしかして、問題児だと思われて警備団に見張って貰った方が、チャンル学園に侵入する段階で取り締まられて裁判沙汰に持って行けた?
漠然と、呪いの儀式をすれば捕まるってイメージだったけどばれないときはばれないわね!? もしかしたらうっかり呪い殺す可能性もあったのかしら!?
なーんてことにはならなかったからセーフよね! そうよ、全部計算通りなんだから!
私は冷や汗を掻きながら臙脂色の目を高速で逸らした。勢いでガクガク頷く。
「しょ、そうよ」
噛んでない。噛んでないわ。
「急に僕を見なくなったね。人の目を見て話す君には珍しい」
「夜に美形のきらめきは目に毒だと思っただけよ」
「生命力に溢れた君の輝きには負けるよ」
「お上手ですワネッ」
「声が上擦っているね。喉が渇いたのかな。お茶をお飲み」
「イタダキマスワッ」
話の流れを誤魔化すため残り少ない紅茶を飲み干す。ちょっと冷めた紅茶は苦みが強かったけど飲めないほどじゃない。
「と、とにかく私の目的は以上よっ! 私は呪うことで裁判を起こして原因調査を国にして貰いたいだけよ!」
「国を動かそうとしているあたりが壮大だなぁ」
「仕方がないじゃない公爵家って貴族で一番偉いんでしょ!? そこを調べるならそれ以上の権力者じゃないと難しいじゃない!」
貴族の序列という奴は淑女教育で習った。今まで序列を理解していなかったけど、敵の位が高ければ高いほど厄介そうだと思っていた。それがまさかの最高位だとは予想外。あんな田舎町に、公爵家が一体何の用で…何故お母さんを訪ねてきたのか。
法廷で洗いざらい吐くがいい! 私も洗いざらい全部吐くから!
そう思いながらここまで来た。
私は知りたい。あの日何があったのか。
お母さんがどこに居るのか、それを知りたい。
「ところでメイジー」
「何かしらスタン」
「裁判にはお金がかかると知っているかな」
えっ。




