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54 呪うことにした


「というわけで、呪うことにしたのよ」

「福音持ちだからこその舵取りだね」


 メイジーは福音を持っている。

 普段まったく意識していないが、呪い師のケビンに目をかけられる程度には持っている。


 それが強く念じるだけで小さな呪いを飛ばせるくらい強いと知ったのは、まさしく母が失踪した事件が切っ掛けだった。


「町の人たちは正しい。流石に相手が公爵家だとは思っていなかっただろうけれど、たいした証拠もなく貴族に難癖をつけたら被害に遭うのは彼らの方だ。理由をつけて一人残されたメイジーが連れて行かれた可能性だってあった」

「目撃情報だけじゃ証拠扱いにならないって言われたけど、本当にそうなのね」

「目撃情報は大事だよ。特に貴族の馬車、家紋のついた正式のものはその家の者しか使用できない決まりだからね。君が見たなら、その馬車にはエフィンジャー公爵…もしくは夫人が乗っていただろう」


 しかし夫人は二十年ほど前から夫の公爵から軟禁扱いだという。

 ならば、該当者は一人。公爵だけだ。


「念の為聞くけど公爵家には他に家族はいないの」

「公爵家を名乗れるのは夫婦だけだね。妹がいたはずだけど他家に嫁いでいるし、そうなれば公爵家の馬車は使用できない。一応、馬車は貴族の財力を象徴する顔みたいなものだから、家の者以外が使用したら犯罪になるんだ」


 それは知らなかった。

 …余計に、あの日見た馬車に乗っていた人物が固定されていく。


「それで? 君は貴族相手では直接訴えたところで揉み消されるから、相手を呪うことで恨みを晴らそうとしたのかい」

「呪った程度で恨みが晴れるわけがないじゃない」

「うん、君ならそう言うと思っていた」


 なんで嬉しそうに頷くのかしらこの男。


 だいたい恨みが晴れたからなによ。私は、恨みを晴らしたいんじゃない。あの日何があったのかを知りたいの。


「それなら、なんのために呪いを行うんだい」

「呪いは、目的の手段でしかないわ」


 お母さんがどこに居るのかを知りたい。

 そのために、あの馬車に乗っていた誰かに問い質すための手段として、私は公爵家を呪いたい。

 貴族を呪うことで、誰かを呪うことで、起こる流れというものがある。


「私は、呪うことで、裁判がしたいのよ」


 高い福音持ちが、うっかり相手を呪うことは珍しくない。

 強く怨念を込めるだけで呪いになるのだから仕方がない。初回のうっかり呪法は捕まらないが、今後同じことがないように、呪い封じの呪具をつけなければならない。

 呪い封じの呪具は無料ではない。罰金の意味もあるので購入は強制だ。

 うっかり気付かずの初回ならばその程度だが、気付いた上で呪いをかけるのは犯罪だ。何度も何度も呪いをかけ続けるのは故意と判断され取り締まり対象になる。


 しかし故意なのか、無意識なのかの判断は難しい。感情的な呪いは、制御できるものではない。

 その真偽を判断するため、専用の裁判所が存在する。


 国が設立した呪法裁判所が。



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