53 そしてそこへ繋がった
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
毎日投稿頑張るぞい。
「そのあと、異変に気付いた大人達が来て町中を探したけど、お母さんは見つからなかったわ」
生死不明の行方不明。
誰の血なのかも不明。
だが寝室という場所から、母ネイのものである可能性が高い。
どう考えてもあの馬車が怪しかった。
弓を背負った鷲が刻まれた馬車。メイジーは警備団にそう主張したが、大人達は苦い顔をするだけだった。
あれは、貴族の馬車だ、と。
「馬車が関係しているなら貴族が関係していて、貴族が関係していると田舎の警備団では太刀打ちできないって言われたわ」
単純な権力差で負ける。
その訴えが正当なものでも、素知らぬふりをされれば追求する術はない。
しかし家に残された血痕から、ただ事ではないのは明らか。むしろメイジーも身を隠した方が良いとまで言われた。
「私を産む前、お母さんは貴族のお屋敷で働いていたそうよ。もし貴族が関係しているなら、お母さんは何か知ってはいけないことを知って逃げてきたんじゃないかって話になったの」
何が起こったのかわからない人たちの妄想に過ぎなかったが、情報がないのだからそうとしか考えられなかった。
昔のこととはいえ、それくらいしか心当たりもない。
「それが、弓を背負った鷲の貴族?」
「知らないわ。母が昔働いていた屋敷の話なんて、聞かされたこともなかったもの」
昔ながらの付き合いがあるマリエルが教えてくれなかったら知らなかった。お母さんが昔貴族の屋敷で働いていたなんて。
だって家事のできない母が、貴族の屋敷で何をしていたというのだ。この屋敷で、近くで仕事を見せて貰えばよくわかる。
侍女の子達も、下働きの子達も多彩で器用。お母さんは器用だけど多彩じゃないわ。
「だけど、見たもの。絶対あの家が関わっている」
お母さんの失踪に、関わっているのは間違いない。
出血量からお母さんが無事かどうかもわからない。だけど周囲を探索しても遺体は見つからなかったから、生きているはず。連れ去られたと考えるのが自然よ。
…事件に巻き込まれて逃げているとか、遺体を持ち去られたとか、色々考えられる事はあるけれど、連れ去られたと考えるのが一番自分に優しいわ。
「だけど貴族だからって、相手にされないなんて…」
混乱と恐怖で目を回していた私を慰めながら、諦めろと語ったのは誰だったか。男だった気がするし若かった気がするが、思い出せない。思い出せるのは腹の底から湧き上がる怒りと噛み締めすぎて滲んだ血の味だ。
視界も赤く染まって、怒りに満ちた頭はむしろ冷え冷えして、思いつく限りの罵詈雑言を吐き出して。
田舎町唯一の呪い師に肩を叩かれた。
『それ以上はいかん。メイジー、呪ってはいかん』
呪い師ケビン、七十七歳。
それ以上の怨嗟は呪いになってしまうと彼は言った。
彼の言葉が、天啓だった。
なるほど。
そうか。
ふうん。
…呪えばいいんだ。
権力差で踏み躙られるなら、権力の届かないところから。
思いっきり怨嗟を込めて、呪ってしまえばいいんだ…!




