49 本当の理由
不快だけど…!
悔しいけど…!
「…そうね、少しはあるかもしれないわ」
頑なに口を閉ざす私に語らせるには、それくらい言わなくちゃ駄目かもしれない。
無理矢理だろうが何だろうが、世話になったのは確か。
贅沢をさせて貰ってしまった。とんでもない贅沢だ。おかげさまで普通の生活に戻れるかとても不安。
「だけどね、聡いアンタなら私が黙って出て行く理由も察しているんじゃないの」
自殺行為だなんて強い言葉を使うくらいだ。私が敵だと思っている相手もわかっているのだろう。
「僕らを巻き込むことを気にしているなら、大丈夫だよ。ロドニーとは違った意味で僕らに手を出せる奴は限られている」
「なによ、アンタもロドニーみたいに特別なの?」
「違った意味でね」
違った意味って何。そこで有耶無耶にするのやめなさいよ。
スタンは私に語らせようとするわりに、自分のことを語らない。明言したのって研究職ぐらいじゃない? 貴族が研究職につくのって普通なのかもわからないから、スタンの身分がどの程度のモノなのか予想もつかない。
そう、スタンだって謎だらけ。
言ってしまえば身分も、年齢も、目的も不明。
私も多くを語らないから、スタンやエヴァ個人の情報を質問したりしなかった。一応身分差もあるから、お互い知りすぎない方が良いとも思ったのよ。まさかこれだけ長居するとは思っていなかったから。
だからお互い、無条件で信用できるほど知らない。
それなのに美しいこの男は、悠然と座っているだけで滲み出る気品から、謎の説得力と信頼を与えてきた。
普段の言動から隠しきれない愉悦が滲み出ているけれど!
「…大丈夫だって言うなら巻き込むけど…それより先に、聞かせてちょうだい」
「なんだい?」
「アンタはなんで私を、ここに連れてきたの」
「連れてきた理由? 勿論エヴァがお礼を」
「エヴァじゃない。アンタの思惑を教えて」
エヴァがお礼を言いたかったから、だけじゃない。
最愛の妹が恩人にお礼を言いたいだけなら、この屋敷に連れてくる必要はなかった。別の場所でもよかった。
エヴァならば、こちらに合わせて礼をしに来る筈だ。それこそお忍びでこっそりと。あの子は目立った行動を好まず、大胆な行動を起こさない控えめな子だ。本来なら、お礼を言いたいだけならメイジーの居場所を突き止めたあと、こっそりできた。
そうならなかったのは、そこにスタンの思惑が絡むから。スタンが愉快犯だからとかじゃなくて、もっと別の理由があるはず。
その内容が知れれば、私も語りやすい。
敵か味方か、判断しやすい。
ないならないで一発殴らせて欲しい。人を玩具にしすぎよ。
「君は直情型のわりに、不思議なところで鋭いよね」
「話す気がないなら部屋に戻るわ。客室だけど。でもって明日のお昼にお暇するわね。正面から!」
「正面突破されたら敵わないな。そこまで堅牢な門じゃないんだ」
「体当たりで突破するみたいに言わないでくれる!?」
そこまで頑丈な身体じゃないし乱暴者じゃないわ。乱暴者じゃないわよ! 決断が早いだけよ!