48 改めてもう一度
庭が、よく見える場所だ。
私のいる客室から門に向かう場合、外から向かうなら必ず通る場所だ。
庭がよく見える場所で、こんな時間に一人で、部屋に灯りもつけずに。
幾らスタンが奇特な男だからって、意味もなくそんなことをするわけがない。
スタンは自分で淹れたお茶を口に含み、カップをソーサーに戻す。
音もなく優雅な動作。洗練された所作。貴族として教育を受けた男。
この男が明るい場所、日の光を浴びながら和やかに笑っている姿は美しいと思う。しかし暗闇の中、秘められた動作は妖しく美しい。
憎らしいほどに。
「そろそろ我慢の限界かなと思ったんだ」
否定も肯定もせず、スタンは語る。
「君には目的があって、僕らはそれを邪魔している。それでも君がここにいたのはもろもろの事情はあれど、ここにいれば情報が入ったからだ」
「私を滞在させていたのはそっちじゃない」
「だけど、僕らにいつまで居れば良いのかと聞きながら、帰ると主張はしなかっただろう?」
主張できなかった…訳じゃない。本気でここを出たいと思えば、そう主張する。今夜のように抜け出す算段だってつける。
たとえ所在がばれていても、彼らにメイジーの行動を制限する権限はない。貴族と言うだけで庶民を好き勝手できるわけではない。
おかしいおかしいと言いながら滞在を続けたのは、こちらにも思惑があったからだ。
それをスタンは察していて、今夜この場所で私を待っていた。
私が今夜、この屋敷を出るとわかっていたから。
「なんでわかったの」
「君、顔に出るから。知りたいことを知ったとき、獲物を見定める野生動物みたいにギラついていたよ」
「うら若き乙女を何に喩えているのよ」
お望み通り野性に返って噛みついてやろうか。
まさしく獲物を見定める野生動物のように目をギラつかせる乙女を相手に、スタンは鷹揚な態度を崩さない。
「改めて、話をしようメイジー」
ゆっくりした動作に視線が引き寄せられる。
「君は一人でやり遂げるつもりのようだけど、僕の予想が正しければそれはただの自殺行為だ」
色々と、ばれている気がする。
「それに」
スタンは自分の膝に肘を立てて頬杖をつきながら、緩く首を傾げた。
「贅沢なおもてなしをしたエヴァに黙って出て行くのは不誠実じゃないか。あの子の兄である僕に、事情を軽く説明するくらいの義理は欲しいね?」
(こいつ…!)
初対面の安宿で、スタンの問いかけに返した言葉を覚えていて発言している。
あの夜メイジーは、誰を呪うのかと問いかけたスタンにこう返した。
『…そこまで貴方に話す、義理がないわ』
言った。確かに言った。
初対面の男に乙女の事情など語れるわけがないと、さっさと騎士団に突き出せばいいと思いながら言った。
だからって、ここでそれを持ってくる?
自分が言った言葉だから、拒否しづらいわ!
(…なにより、揚げ足を取られたみたいで不快!)




