47 真夜中のお茶会
結局私はそのまま庭を進むのではなく、スタンのいる部屋でお茶をすることになった。
お茶の誘いなど振り切って進んでやると意地になりかけたが、スタンが。
「夜の警護は昼間の比じゃない。怪しい奴は捕縛じゃなくて処分されるよ」
なんて言ったので、断念せざるを得なかった。夜ってそんなに物騒なの?
このままだと私、窓から外に出て窓から室内に戻っただけの人になるんだけど。何かしらこの敗北感。
部屋に置かれた小さなポットでお茶を淹れるスタンを眺めながら、言い知れぬ敗北感で仏頂面になる。テーブルには夜食だというビスケットまで並び、夜のお茶会は準備万端だ。窓枠ではリスが砕かれたクルミを必死に口に詰めている。
クルミはスタンが用意したもので、先程兵隊姿のくるみ割り人形で割っていた。
先程までクルミを割っていたらしい。割る前のクルミが窓から落ちて、身を低くして移動していた私の頭に落ちた、と。
そんなことある?
楽しげにバリッとクルミを割るスタン。現れるクルミに夢中なリスを見て、思わず遠い目をした。
「どうぞ。お茶だけなら一人で淹れられるから、味は保証するよ」
「どうも…」
普通に美味しいお茶だった。
残念ながら私は、細かい違いがわかるほどお茶を嗜んでいない。飲めれば良いと思うわ。
だけど冷えた身体に、温かなお茶は染みるわね…。
…本当に一人でお茶を淹れたわね。モーリスもいないから、そうするしかなかったとはいえ。というか年頃の男女が深夜に密室で二人っきりって大変よろしくないのでは? しかも部屋の灯りをつけずに、光源はランプ一つの薄暗い部屋。
大変よろしくないのでは?
窓辺にリスがいるけどあれって計算に入れていいのかしら。あの子ってメス? オス? リス?
「…そのリスって、この家で飼っているの?」
「いいや? 今日初めて見たよ。ここには猫も犬もいるから、小動物は基本的に入り込まないんだけどね」
「野生の警戒心どこ行ったのよ…」
幸せそうな顔で頬袋をこねるリス。満足したのか小さく開いた窓から外に出た。
とうとう男女二人になってしまったじゃない。スタンが不届き者じゃないのはわかるけどそう言う問題じゃないでしょ。本当にモーリスいないの? スタンの背後霊しているモーリスはどこ?
室内は暗い。光源はランプ一つで、二人の間にある足の短いテーブルの上に置かれているものだけ。
だからなんとなく、なんとなくでこの部屋がどこかを察した。
応接室だ。
昼間初めて足を踏み入れた場所。足の短いテーブルと長椅子。部屋の隅に置かれた観葉植物。そして庭がよく見える窓。間違いない。
間違いない。
「…あなた、私がここを通るってわかっていた?」




