41 初恋の君
変質者かと思ったけど、素性がしっかりしているなら問題ないわ。貴族じゃないなら私が処刑される心配もないし。
ほっとした私は肩から力を抜いた。
思ったより強ばっていたようで、そこでようやくちょっと寒いなと自分の格好を改めて見下ろした。
今流行と聞いたヴィンテージ物のネイビーのドレス。デコルテの部分がかなりあいていて、肩の付け根から手の甲までを覆う花のレースが特徴的。レースだから、その部分の風通しがよくてちょっと寒いのよね。
お客に会うからって髪も結い上げられたから首が寒いわ。
ここにはいないエヴァ曰く、親の世代の流行りが一周してきたところらしい。流行が巡るとはこのことね。貴族の流行とか知らないけど。
それにしても、一張羅がリス被害で着られなくなったから仕方ないとはいえ、客人の前だからと整えられたのはやり過ぎじゃないかしら。お茶会に参加するご令嬢に見えなくもなくないかもしれない。お世話の人たち張り切りすぎよね。そもそも私の客じゃないし。
対面に腰掛けたロドニーを見る。
年齢詐欺の下っ端研究員は、ボロクソ言われてしょんぼりしたのも一瞬で、改めて私をじっと見つめていた。
懲りないわねこいつ。
文句を言おうとした私より早く、ロドニーが口を開いた。
「突然ですがナディアという女性を知りませんか」
「ナディア? …去年生まれた肉屋のナディアちゃんなら知っているわ」
田舎町のアイドル。ギャンかわよ。
「いいえ乳幼児ではなく四十代女性です」
「大人? ナディア…多分知らないわ」
田舎町では本当に肉屋のナディアちゃんくらいしか知らない。王都に来てからの知り合いは少ないし、その中にナディアはいなかったはず。そもそも四十代女性の知り合いがいない。田舎町の住人達くらいよ。
「それって何をしている人なの。というか私と関係ある?」
「今何をしているのか不明で…あなたによく似ていたので、親族かと…」
ロドニーがやけに私を見詰めてくるのは、私に誰かの面影を見ていた所為ってことかしら。
だとしたらやっぱり駄目男ね。本人じゃないのに本人を求めて別人に迫るとか最低よ。使い物にならなくなればいい。
とりあえず、いつまでも粘着されるわけにいかないのでしっかり否定しておく。
「私の親族は母しか知らないけれど、ナディアって名前じゃないわ」
「そうですか…残念です」
本当に残念そうに肩を落とすロドニー。その動作すら耽美って何かしら。福音とは別に滲む色気は何なの。絶対エヴァに会わせられない。悪影響を及ぼすわ。
私が改めてロドニーを警戒していると、笑いの発作から回復したスタンが愉快そうに言った。
「メイジーに似ている女性か…それって、君の初恋の君のことかいロドニー」
それ聞くの?
「はいそうです」
こいつ、躊躇なく認めたわね。
つまりさっきの口説き文句、一応嘘は言っていないのね。二十点に変わりはないけど。
「あなたは私の初恋、公爵夫人にとても似ています」
「ちょっと待って。こいつ人妻に横恋慕しているの?」
そこまで耽美系突き詰めなくてもよくない?
田舎町の愉快な住人達
・肉屋のナディアちゃん もうすぐ一歳
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