40 福音の高低差
「ああ、メイジーは福音を持っているからそう聞こえるんだろうね」
声なく爆笑していたスタンが声を震わせながら口を開いた。とぼとぼ椅子に戻るロドニーを笑顔で見送って、笑いの発作を収めるように胸元を二度叩く。
どんだけ笑っていたのよ。
で、福音が何ですって?
「どういうこと」
「ロドニーの福音は、他と反響するくらい高いんだ」
「へえ、初めての経験だわ。反響」
福音を持つ人は多いが、皆が同じ量の福音を持つとは限らない。
量が多い者、少ない者。それを音階になぞって低い、高いと表現する。
少ない者は低い。多い者は高い。ちなみに個人的には低い音の方が量、多そうだと思っているわ。どっしり音が響くから。
因みに、低いからと言って侮ってはいけない。呪いは重ね掛けすることで深みを増し、低い音が連なって地響きのように対象を襲う。福音が低いからこそ、呪われたときの積み重ねは恐ろしい。
福音が高い者は、高すぎて呪いが失敗しやすい。高すぎて存在が認識し辛いらしい。それって少ないのでは? って思うけれど、多いからこそなんですって。
高い福音を持つ人は、同じく高い福音を持つ人と反響して声が二重に聞こえることがある。
福音が高ければ高いほど、他の人に反響してわんわん響く声になる。ただし福音持ち、それも高い福音を持つ人じゃないと分からない特徴。
意味わかんない。
低い音だって反響するじゃないってツッコミを入れたい。誰にともなく入れたい。
でも実際の音と福音は違うわけだから、詳しく考えるな感じろって福音について説明してくれた呪い師のケビン六十六歳が言っていたわ。
遠い昔は福音の反響なんてなかったらしいから、反響するようになったのは福音を調査して、力に対して人間が過敏に進化した結果じゃないかなんて考察もあるらしい。
このあたりも全部田舎町に住み着いた呪い師からの受け売りよ。
私は福音持ちだったから、田舎町の呪い師のケビンにはそれなりにお世話に…。
「…つまりこいつは呪い師なの?」
呪いを取り扱う男を呪い師。女を魔女と呼ぶ。
「いいや、ただ福音が高いだけの研究員だよ。高すぎて上手く制御できないから、永遠の下っ端研究員なんだ」
「事実だけに辛い」
なるほど理解。
福音が高すぎてあらゆる方向に弊害のある男なのね。どんまい。
田舎町の愉快な住人達
呪い師ケビン 六十六歳
~考えるな感じろ~
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