39 詐欺被害?
「そうだね、ロドニーは反省した方がいい。どう見ても下心があっただろう」
どこから見ていたのかしらこの男。確かにここからよく見えるけど、ここ応接室よ。今まで別のところに居たんじゃないの。
スタンが諫めるように口を開いたけれど、しょげるくせに意外と往生際は悪いのか、ロドニーは胸に手を当てて首を振った。なんで胸に手を当てたの。潔白を表現しているの? 胸元がはだけている女性をじろじろ眺める時点で有罪よ。
「いいえ、そんなまさか。私のようなおじさんがメイジー嬢のようにうら若き女性に下心など…犯罪になります」
「おじさんの方がたちの悪い下心を持ちやすいと思うけれど…って、おじさん?」
改めてロドニーを見る。
白磁の肌。艶めく金髪。憂愁を帯びた碧の瞳。すらりと背の高い、二十代後半にしか見えない男性。
おじさんには見えない。
「おいくつ?」
女性じゃないから直球で問いかけた。
「三十五を超えました」
何故か誇らしげに返された。
「研究職は偽りの姿で本業は詐欺師かしら」
「嘘じゃありませんが?」
「でも本当のことでもないね。メイジー、こいつは四十九歳だよ」
「お前なんで嬉々として燃料注ぐんだ?」
は? この顔で四十九!? この肌つやで!?
男は四十を過ぎたら適度に脂がのりだすからそこからが本番だって古本屋のアンドリュー四十五歳が言っていたのにこの肌つやで四十九!? 良い感じに脂ののったいい男アンドリューより年上!?
「詐欺じゃない!」
思わす叫んだ。
「いいえそんなまさか! 私はただの研究員です!」
「いいえ結婚詐欺師とか異性を誑かす側の詐欺師だわ! だって手付きがいやらしかったもの! 私を誑かすつもりだったでしょう!」
男女関係なく接触がいやらしいと感じたら確実にセクハラだから躊躇うなって宿屋のベン七十七歳が言ってたわ!
「セクハラ男は躊躇わず通報一択。騎士団! 誰か騎士団呼んで!」
「違うんです違うんです!」
警備団を飛び越えて騎士団を呼ぶ私にロドニーが慌てた。私は座ったまま拳を構え、隣のスタンは手の甲で口元を押えながら横を向き続け、モーリスはスンッと表情なく一連のやりとりを見ている。スタンがブルブル震えているのは私の所為じゃないわ。
必死に首を振りながら身を乗り出したロドニーは、立ち上がって私の傍までやって来て膝を着き、私の手を両手で握った。
「私がつい距離を詰めてしまったのはあなたがあまりに美しく、初恋を思い出してしまったからです。昔目にした美しい貴婦人。その人にそっくりなあなたに、罪深くも触れてしまいたくなった。触れることのできなかった憧れに手を伸ばしてしまったのです…お許しください」
手を握って、騎士のように膝を着いて、慈悲を乞うように見上げてくる。
くわん、と反響するように響いた声に、私は顔をしかめた。
「女を口説く常套句かしら。相変わらず勝手に女の手を取るあたり懲りてないわ。でも顔が良い。二十点」
「酷い」
何も酷くない。
私はぺいっとロドニーの手を振り払った。
だいたい、女を口説くのに他の女を持ってくるんじゃないわよ。近所の女ったらしの猟師ボブ五十四歳が聞いたら失笑するでしょうね。女は常にナンバーワンじゃなくてオンリーワンとして扱えって近所の悪ガキに叱っていたわ。
…隣のスタンは失笑どころか、私の採点に声なく爆笑しているけど。
その背後のモーリスが、呆れた視線で私を見ている。
「顔が良いって採点に含まれるのか…?」
「顔が良ければ何を言ってもときめくお手軽な女はどこにでも居るわ。ただしお手軽なときめきだから、観賞用で終わるわね」
「辛辣…」
「それよりあなた、ずっと言おうと思っていたけど、声がなんか変よ」
「隠すことなく辛辣…」
田舎町の愉快な住人達
・古本屋のアンドリュー 四十五歳
~男は四十過ぎてからが本番だ~
・宿屋のベン 七十七歳
~いやらしいと感じたらセクハラ。躊躇うな~
・猟師のボブ 五十四歳
~女は常にナンバーワンじゃなくてオンリーワン~
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