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33 諦めません見つけるまで

「リス、リス。退いてよリス」


 木の枝に腰掛けるような自然な動作で私の膝に腰掛けないで。

 動けないのは困る。可哀想だけど追い払おうと手を伸ばした。

 くりくりした丸い目が、私の手を捕らえる。小さな手が頬袋から離れたと思ったら、ぴょんと私の胸元に飛びかかってきた。


「あ、こらこらこらこら!」


 飛びついた勢いのまま、胸元のボタンをカリカリ齧った。

 いきなり何を…あ、しまった!

 このボタン、クルミの殻を使っているんだった! 狙いはこれか!


「ちょっと! 中身ないわよ! 中身はないったら!」


 なんとか引き離そうと格闘するけど、すっかりボタンに齧り付いて離れない。胴体を捕まえて引っ張るけど力が強い…!


「あんたたち、クルミの殻は食べないでしょうが…! ないったら! ここには何も無いったら!」


 クルミの香りも残っていないでしょ! なのに、なによこの執着! 全然クルミのボタンから剥がれないわ!

 胴体が小さいから力一杯引っ張るのも気が引けるし! ぎゅって握っちゃ駄目でしょこの小さい命! か弱くないけどか弱いんだからぎゅっとしちゃ駄目でしょ!


「あっ!」


 とうとう第一ボタンが耐えきれず外れてしまう。リスが勝ち鬨をあげた。


「あーもう、なんてことするのよ。私が遠慮無く着られるのはこの一着だけなのよ」


 酒場の近くにある借家にある日持ちしない食材は処理されたけど、荷物に手をつけていない。私は着の身着のままここに来たので、私物はその時身につけていたこのワンピースくらい。

 そんな一張羅のボタンをリスに千切られてしまった…リスは手に入れたクルミの殻をひたすら齧っているけど、殻の方が硬くて歯が立っていない。まさしく歯が立たない。

 不思議そうな顔をしているけど、それもう半分になったクルミよ。身はどこにも無いわ。


「だから言ったでしょ、中身はもう無いって…無いったら!!」


 リスを胸に抱えたままだったのがいけなかったわ。

 戦利品のクルミの殻を抱えたまま、身を乗り出したリスが私の胸元に頭を突っ込んできた。


「ないわよ! 殻の中身も落ちてないわよ!」


 今度は谷間に首を突っ込んで木の実を探すリスと格闘することになった。素肌にリスのひげや鼻先が当たって擽ったい。

 無いったら! ここには何も無いったら!


「あーもう、いい加減に…っわあ!」


 引き剥がそうと抱えた身体が滑るように私の手から抜けて、リスはすっぽり私の服の中に潜り込んだ。

 胸元でジタバタ暴れて、ひっくり返って、胸元からひょっこり顔を出す。


「あれぇって顔をしてもそこには何も無いわよ!」


 不思議そうな顔をしてひげを揺らすリスは、小刻みに動いて擽ったい。ペタペタあちこち触らないでくれる? 私はきゅっと胸でリスを挟んで拘束した。

 …やっと大人しくなった。リスを取り出すため第二ボタンを外し、握りつぶさないよう気をつけて、小刻みに身体を揺らすリスを谷間から引っこ抜くが…その第二ボタンに、またリスがしがみ付いた。


 何こいつしつこいぃ~~~!! 全部のボタン齧るつもり!? どれを齧っても結果は同じよ! 全部空っぽ!

 これはもう別の餌を用意してクルミ(のボタン)を諦めさせるしかないわ!


 クルミの殻にご執心のリスを抱えたまま憤然と立ち上がった私は、屋敷の中に戻ろうと振り返って。


「わぷっ」


 思いの外近くにいたらしい誰かにぶつかった。

 嘘でしょこの距離で誰か居たの!?



胡桃の殻を利用したボタン。

田舎町ではその辺に落ちているモノを利用していました。

半分に割れた胡桃に工具で穴を開け、ボタンとして使用。

勿論中身は入っていないし、匂いもないはず…だけど胡桃にご執心なリス。


『宣伝』

プティルブックス様より

事故チューだったのに!

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