29 熱々の肉汁は凶器
「こ、こんなに熱いもの初めて食べた! 口の中がヒリヒリする!」
「あ、やっぱり火傷してるわね。ごめんなさい。揚げたての肉汁って凶器よね」
美味しいのは揚げたてだけど、危険なのも揚げたてなのよ。その肉汁に旨味が凝縮されているんだけど、本当に火傷注意だから。
アレって多分、皆経験したことがあると思うのよ。思いっきり口に入れて後悔した経験が。
「凶器! はは、知らなかった! 口の中を火傷なんてしたこともない!」
「ないの!?」
できたてのほやほやの料理が持つ誘惑に今まで勝ち続けていたってこと!?
冷めたのより絶対美味しいから、あの湯気と匂いに勝てる人はごく少数だと勝手に思っていたのに、ここにいたわ。
「ふふふ…っ、うん。はじめて。ヒリヒリする。舌がおかしい。はははっ」
「これ笑うところ?」
何がうけているのかしら。わからないわ。
「あつい…?」
「あっこらエヴァ! 駄目よ危ないわ!」
笑い転げるスタンの横で、エヴァが恐る恐る肉団子を丸々一個口に入れようとしていたので慌てて止めた。
「スタンが大笑いしているからって火傷を甘く見るんじゃないわよ! それにその大きさじゃ一口は無理よ。半分に割りなさい」
「半分にしたら冷めてしまうのでは…」
「そんな急速に冷めないわよ」
小皿の上で半分に割ってやれば、肉団子から肉汁がこぼれ出る。肉汁からもくもく立ち上る湯気に、エヴァは目を丸くした。
これでも熱いけど火傷は免れるでしょ。そう思ってエヴァに渡せば、おそるおそる口に含んだ。
「! あふぃ…!」
口元を押えながら、エヴァが更に目を丸くする。その目はキラキラと輝いていた。
なんでこの二人、そんなにテンション上げているのかしら。スタンなんてまだ笑っているし。笑いながら肉団子を食べているわ。
流石に二回目は二つに割ってから食べているけど、熱い熱いと楽しそうね。
私はちょっと冷めた肉団子を口に放り込む。噛めば溢れる肉汁は程よい熱さ。いつも通りの馴染んだ味。大笑いする理由がよくわからないけど、不味くはない。舌に馴染んだ庶民の味よ。
…本当に、何がそんなに楽しいのかしら。
よくわからないけど、彼らが嬉しそうならそれでいいか。
よく噛みしっかり飲み込んで、私は二個目の肉団子に手を伸ばした。
…いや、何馴染んでるの私。
はっと我に返った頃には、当たり前のように客室でふっかふかの布団に包まれていた。
戻れなくなる…! 硬い布団に戻れなくなる…!
…布団だけ貰っていっちゃ駄目かしら。
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事故チューだったのに!
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