28 できあがったのがこちら
「それで、できあがったのがこの肉団子?」
「たくさんできました!」
エヴァときゃっきゃしながら肉を丸めて揚げたら、当たり前のような顔をしてスタンが厨房に現れた。料理人達は震え上がっていた。大袈裟ね。
完成した肉団子を大皿に乗せたところで現れたスタンとモーリス。彼らは興味深そうにほかほか湯気の立つ肉団子を見下ろしていた。
何この図、面白いわね。キラキラした顔の男が肉団子をキラキラした目で見ているわ。はじめてご馳走を前にした子供みたい。
「すごいねエヴァ。これだけの数を作ったのかい」
「はい。メイジーと一緒にこねて、丸めて、揚げました!」
エヴァの頬は桃色に染まり、星空の瞳はキラキラ輝き、どことなく誇らしげだ。これもあれね、初めての料理を自慢する子供と一緒。お貴族様は全然料理をしないから、気持ちとしてはその通りなんだろうけど。
なんだこの兄妹可愛いな。
作った肉団子は簡単なレシピ。みじん切りした野菜を混ぜたりチーズを入れたりする事なくオーソドックスにこねて丸めて揚げたモノ。
敢えて言うなら生姜とニンニクを混ぜて香ばしくしたくらいかしら。お貴族様って匂いにも気を遣うそうで、ニンニクも最低限なんですって。お貴族様、気にすること多いのね?
でも知ったこっちゃないわ! 私庶民だもの!
たーっぷり入れてやったわよニンニク! おかげさまでとっても香ばしいわ!
「…ふ、ふふふ」
「何笑ってるのよ」
目を輝かせていたさっきまでと違い、堪え切れない笑いが漏れるスタン。
何笑ってるのよ。
「いや…ね」
くすくすと、綺麗な顔が愉快そうに笑う。
「ここで作るのがお菓子じゃなくて肉料理だというのがおかしくて」
「何言ってるのよ! お菓子の材料費は高いのよ! 庶民を舐めるな!」
「ああ、それは確かに」
砂糖が高いわ。料理に使うくらいなら買えない金額じゃないけど、お菓子に使う量となれば話は別よ。どんだけ砂糖使うと思ってるのよ! 慄くほど入れるわよ!
「それに最後に勝つのはお菓子じゃなくて食事系よ。もっと言えば男の胃袋を掴むなら肉料理。成長期ならなおのこと肉を食べたくない男はいないはず!」
「お菓子より食事…胃袋を掴む…」
「たくさん食べるならたくさん餌付けすれば良いわ!」
「エヴァにおかしな情報を与えないでくれる?」
「煩いわね!」
「もごっ」
「トッ! スタン――――ッ!」
こっちは乙女の戦場よ。恋の駆け引きは軍事より複雑怪奇なんだから黙ってなさい。
口うるさいスタンの口に一口サイズの肉団子を突っ込む。今まで空気だったくせに、モーリスが悲痛な声を上げた。
「あふっ」
「あ、ごめん」
しまった。そういえば揚げたてだったわ。
揚げたての肉団子って肉汁が凶悪なほど熱いのよね。口の中火傷させちゃったかしら。
これは反省。これ、本気で凶器だもの。
スタンは口元を押えながらはふはふなんとか口から熱を逃がしていた。慌てたモーリスが水を持ってくる。受け取ったスタンは水を飲み干し…。
「っは、は…あはははは!」
なんか笑い出した。
え、怖い。
『宣伝』
プティルブックス様より
事故チューだったのに!
発売中!