25 即席料理教室
宣言したからには即行動。
私とエヴァは厨房へと乗り込んでいた。
厨房で働くのは三人の料理人。彼らは夕食の仕込みをしていて、突然現れた私達に慌てていた。邪魔するわよ!
私は厨房の一角を占拠して、彼らから新しいエプロンを二つ強奪する。それをエヴァに着せて、三角巾で髪をまとめて、しっかり手を洗った。
「さあ! 料理教室をはじめるわよ!」
「流れが強引すぎる…!」
流されてしっかり料理する態勢になっているエヴァが目を回していた。しっかり着いてきなさい振り落とされるわよ!
「そ、そもそも何故いきなり料理教室なのですか」
「男は胃袋からって近所のお姉様が言っていたからよ」
田舎町だけど、若い奴だってたくさんいたわ。
三つ年上のロゼッタは、特別綺麗なわけじゃないのに町の男達からモテモテだった。彼女は溢れる母性で優しい味のスープを作り、数々の男の胃袋を陥落させていた。
彼女は優しい笑顔で、男は胃袋から掴むモノだと語った。
そして狙いを定めた男の胃袋を陥落させ、無事結婚した。説得力が違う。
「で、ですがわたくしのような素人の作ったものをピーター様に渡すわけには」
「素人上等。それ以上ヘタになる事はないわ。これからたくさん食べさせて、上達したねって成長を褒めて貰う楽しみがあったっていいじゃない」
「よ、喜んでくださるかどうか…」
「あのねエヴァ…受け身じゃ、駄目よ!」
私は彼女の細い肩をしっかり掴み、背の低い彼女を威圧しないよう気をつけながら低い声で言い放った。エヴァの星空みたいな目が混乱でぐるぐるしているけど言葉は止めない。
「思いが通じたからって安心しちゃ駄目。恋は常に駆け引きよ。愛は何度伝えても良いの。確実なおまじないはちゃんと覚えてる? 恥ずかしくてもちゃんと繰り返し伝え続けなさい! でもって料理はそれを伝えるためのアイテムよ!」
って派手な化粧がよく似合う、スレンダー美女五十二歳のマリエルお姉様が言っていたわ! 彼女の場合、料理じゃなくて酒だったけど!
「つ、伝えるためのアイテム」
「きっかけの小道具は必要でしょ。ハンカチと同じよ。それとも言える? 好きって言える?」
「小道具は必要ですね!」
きっかけがあるのとないとで難易度も違いがあると思うのよ。
エヴァは恥ずかしがり屋だし。ピーター様も似たようなものでしょ、あの感じからして。
「ですがそんなに繰り返して、邪魔に思われませんか」
「そこは調節するしかないわ」
「難しいです」
「そうね。でも気持ちが通じ合ったからこそ、油断しちゃいけないと思うの」
そう、恋人成立の瞬間こそ、気をつけないといけないわ。
「な、何故ですか」
「世の中には『人のもの』ってだけで欲しがる迷惑なやつがいるからよ!」
田舎町の住人達
・お袋の味 ロゼッタ 二十歳
~男は胃袋で掴む~
・スレンダー美女 マリエル 五十二歳
~恋は駆け引き。小道具が大事~
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プティルブックス様より
事故チューだったのに!
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