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20 必要な方便


「エマがいたら血涙を流していただろうね」


 きゃあきゃあと楽しげな歓声を聞きながら、スタンは書類に目を通しサインを繰り返す。

 窓の開いた一室で重厚な椅子に腰掛け、豪奢なテーブルに向かっていた。傍に控えるモーリスは壁際に控えながら、窓の外から聞こえる会話に苦虫を噛み潰したような顔をする。


「恐らく、主が寂しがっていることへの歓喜と不甲斐なさ。馳せ参じることの叶わぬ身への怒りと焦燥。お友達にと乞われた女に対しての感謝と嫉妬で血涙を流すだろうな」

「アイツは本当に我が妹が大好きだね。だから護衛として傍に置いていたわけだけど…これから先はどうなるかわからない」

「アイツ、少なくとも三年は辺境伯に貸し出されるんだよな?」

「最低三年と契約したから間違いなく帰って来られないよ」


 スタンの妹、エヴァの護衛のエマ・ベルンシュタインは諸事情から辺境の地、レオニハイドへ赴いている。用事が済み次第帰還する予定だったが、エマを気に入った辺境伯からの希望でその身柄は三年、辺境に移されている。

 エマは大層暴れたそうだが、スタンはあっさり彼女を辺境伯に売り渡していた。契約の際、しっかりこちらに有利な条件を書き加えて。


 彼女の身柄を三年預けるだけで、彼の忠誠が買えるなら安いものだ。勿論心からの忠誠に育てるのはスタンの仕事だが、切っ掛けができただけ上等である。辺境は遠い。


 辺境伯のレアンドル。若くして辺境の地、レオニハイドを防衛する若き獅子。


 役に立たないなら切り捨てるつもりでいたが、彼は逆境から抜け出した。その切っ掛けになったエマを望み、口説き落とす時間が欲しいと言うから三年与えた。

 三年後、エマが帰ってくるか、そのまま彼の地に腰を据えるかは、彼の努力に掛かっている。

 正直、スタンはどちらでもいい。妹は寂しがるが、不幸にはならない。むしろ祝福するだろう。優しい娘なので。


 何にせよ、護衛のエマが三年は帰ってこないことは決定している。それを妹も承知していた。

 承知していて、あの言動。


「あの女、三年ここに置いとくつもりで?」

「ただの方便だよ。目的はもっと別にある」

「だよな。よかった、今までとタイプの違う女に興味津々なのかと」

「興味津々だろうが三年も拘束する気はないさ。僕もエヴァもね」


 あの方便を使うよう頼んだのはスタンだった。スタンには、メイジーを暫く拘束しておく方便が必要だった。

 エヴァがお礼を言いたかったのは本当。だが顔を見て一言お礼が言えればそれでよかった。目的は既に果たされている。しかしまだ彼女を帰すわけにはいかない。


「いつまでもここに留めておくのは無理だぞ。本人もだが、周りが納得しない。何よりばれる」

「現状は?」

「表立ってなにか言うやつは今のところなし。だがお前たちを呼び捨てにするわため口だわ行儀がなってないわでとんだ野生児と思われているぞ」


 否定できない。


「その他あの女からこちらに対する疑問点は…あまり突っ込まないことにしたのか、言ってこないな」

「貴族と察してからもあの態度だったのはすごいね」

「ただの考え無しだろ」


 否定できないが、あの態度はこちらが受け入れていることだ。



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