19 未だ秘められた恋
「ひ、秘密にしなくちゃいけないんです…!」
わっと両手で顔を覆う。耳も首も真っ赤だ。
「し、信頼できる護衛はいます。いますが、現在所用で傍を離れているのです。お礼の気持ちは本物ですが、もっとお話ししたいのも本当です…! せ、せめて護衛が戻るまで、話し相手になっていただけませんか…?」
そろ、と顔を覆っていた手が下がる。丸められた指の隙間から、キラキラ輝く星のような目が羞恥で涙に濡れていた。
可愛い。
「つまり…恋バナしたいの?」
「ひゃい…」
お貴族様って大変だ。
身分差があると気軽に恋バナもできないのね。仲良くおしゃべりする相手で真っ先に上がるのが護衛。もしかしなくてもお貴族様ってお貴族様同士だとギスギスしてる?
…エヴァは今、この世の春。泣いちゃうくらい、禁止されている恋のおまじないをしちゃうくらい大好きな人と想いを通わせ恋人同士になって幸せいっぱい。その幸せを語りたくて、事情を知っている唯一の私を探していた。
切っ掛けのお礼が方便で、おしゃべりしたいってのが本題かしら。
すごいわお貴族様。恋バナのためなら不法侵入した不審者でもいいのね。よくないわよ大丈夫? この子の危機感ちゃんとある? 兄の方は愉快犯だと思うのよ。
でもここまでお世話になっちゃったら仕方がないわ。
出された紅茶をぐいっと飲み干して、ソーサーに戻す。ガチャンって鳴ったけど知らないわ! ヒビ入ってなければ! ないわよね!?
いいわ、してやろうじゃないの! 恋バナ!
「覚悟しなさい! 重箱の隅をほじくる勢いで聞いてやるんだから! こうなったら穴が空くほど聞いてやるわよ!」
お節介な近所のおばさんレベルで根掘り葉掘りしてやるわ!
「まず出会いから聞かせなさい。何処で会ったの? あった時の印象は?」
「は、はじめてお会いしたのは学園に入学してすぐ…」
勢いよく切り込んでいく私に、もじもじしながらも照れくさそうに、嬉しそうにエヴァは笑った。
くっそ可愛い顔して! 仕方がないわね!!
その護衛の人が戻ってくるまでだから!
そして私はたっぷり二人の出会いから今日に至るまでの話しを聞き。
暗くなったので、また明日と客室に通された。
…ねえ、護衛の人が近日中に戻らないなんて聞いてないんだけど!?
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事故チューだったのに!
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