18 贅沢すぎる
「ご不満でしたか…?」
「満ち足りすぎて今後が怖いって話よ…!」
勝手に雲の上まで連れてきて、あっという間に地面に叩き付けられるのは怖くて仕方がないわね! それくらい格差があると思いなさい。
「おもてなしのつもりでしたが、いけなかったでしょうか…」
「不相応過ぎてひっくり返りそうよ…このドレスとか、私が着ても仕方がないじゃない」
「お似合いです。メイジーさんは赤がよくお似合いですね」
「こんな綺麗な赤も庶民では手を出せない色…!」
すっきりした濁りのない赤だ。庶民が着倒して洗濯で色落ちした赤とは比べものにならない。似合うと言われれば乙女心は喜ぶが、庶民の部分が見たことのない色彩に戦いている。これでもどうしたらいいかわからず混乱しているんだからね…!
「わたくし、どうしてもメイジーさんにお礼が言いたくて…お兄さまにお願いして探していただいたのですが、わたくしのために無理にここまで連れてきたと聞きました。せめて寛げるよう心がけたのですが、逆に気を遣わせてしまったようですね」
「おもてなしの心はありがたいわ。私がちょっと庶民の心を無視できないだけ。お風呂とか、すごい贅沢だったわ。ありがとう」
「いいえわたくしこそ、先日は、ありがとうございました」
「お礼を言われるようなことはしていないわよ」
「えっと」
もじもじしだした。頬が桃色を通り越して真っ赤。
「あ、あのあとピーター様とお話しまして、わたくしの気持ちも、ピーター様のお気持ちも確認できまして」
「そういえば恋人の誕生がどうとか言われたわ。おめでとう。よかったじゃない」
「ひゃい」
ぷしゅうって耳から湯気が出そうね。
もじもじしているのが可愛いわ。可愛いけど。
「私、それに関しては本当に何もしていないわよ」
「いいえ! 口に出すべきと助言をいただきましたわ!」
アレ助言かしら。
「それで、その…わたくしたち、想いを通わせることは叶いましたが、身分差からすぐに表沙汰にすることもできず…」
「そうなの? お貴族様って面倒なのね」
庶民からしてみれば、貴族は貴族。爵位によって違いがあるのはわかるけれど、男爵だろうが伯爵だろうが貴族は貴族だ。庶民は彼らに逆らえばプチッと潰されてしまう。
使用人も同様だ。彼らを疎かにすることは、背後の貴族を疎かにすることと等しい。
貴族に仕える使用人にも格がある。中には貴族だけど上位の貴族に仕える下位の貴族も混じっている。だから庶民は使用人だろうが、貴族関係者には気を遣う。一目じゃその人の階級なんてわからないから。
因みにどこの貴族に仕えているか、それは制服の一部に刺繍だったりバッチだったりで家紋を刻む。ここの使用人たちは袖口に家紋らしき刺繍がされていた。
鳥と、鈴。それがこの兄妹の家紋らしい。
…ふうん。
昔金持ちの使用人をしていた近所のジニー五十一歳曰く、使用人の制服に刺繍を施すのは下位貴族が多いらしい。だから多分、彼らは男爵か子爵。
ピーター様と身分差があるってことは、ピーター様って意外と上位の貴族なのね。
庶民にとってはどっちも身分の違う相手だけど。
…そんな相手に敬語を使わず、ため口をきいているのは大変よろしくないことだけど、完全に訂正の機会を逃したわ。誰も苦言を寄こさないから直す機会をすっかり逃した。
庶民の生意気な態度を受け入れる、目の前のお貴族様はまだもじもじしている。白い指先をツンツン合わせていた。
「だから、だから…お、お話しできる人が、メイジーさんしかいないのです」
「え、仲良くおしゃべりできる人いないの」
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