140 婚約より前にすべきこと
こんな当然のことで驚かれるなんて不安になってくる。
それでも言いたいことがたくさんある。
まず第一に。
「そもそも結婚相手としてスタンを見たことがないわ!」
「わあ、ばっさり」
「正直ムカつくやつって印象が何より強いわ!」
「だろうねぇ」
そうよねこいつわかっていてあんなだったわよねむしろなんで私に恋してんの!? 私こいつに優しくした記憶なんかないわよ!
いつだって私には余裕がなくて、喧嘩腰で対応していたはずなのに。なんでそんな愛を語るくらい想われているの。私ってば何をしたの。
「色々余裕がなかったからちょっとドキとかしたのは気の迷いだったかもだし!」
「ドキとかしたんだ?」
「気の迷いよ嬉しそうにするな!」
そうよムッツリモーリスとセクハラロドニーと相対的にみてまともだったスタンに惑わされただけよ!
「ちゃんとお付き合いしないと生涯添い遂げられるか判断できないでしょ! それに婚約とかしたら合わないと思っても別れられないじゃない。貴族もっとよく考えて!」
貴族は個人としてではなく家同士の契約の面が強いんでしょうけど、だからこそ相性をしっかり確認すべきじゃない。目も当てられない程相性が悪かったらどうするつもりなのよ。
そう簡単に別れられないんだから、もっとよく考えて婚約しなさいよ!
私の叫びに、スタンは思わずというように声を上げて笑った。
「は、ははっ! 僕、振られるかもしれないんだ!?」
「当たり前でしょ何ふざけたこと言ってんの。寝言は寝て言いなさいよ」
「君以外王妃になれる人は居ないのに?」
「アンタの都合は私の都合じゃないの。甘えないで」
知るかそんなの。
欲しいって言われて簡単にあげられるものじゃないのよ。愛とか恋とか。
いらないって思っていても、芽生えるものは芽生える。たとえ咲いたとしても、その花を愛でるか贈るか捨てるかは、本人が決めることで第三者が決めることじゃない。
求められたからって、手軽に摘んで贈れるものじゃない。摘み過ぎたら花畑だって貧相なことになるから思うがまま行動しちゃだめよって、花屋のマージが言っていたわ!
人生経験豊富な彼らの言葉を聞いて育った私は、貴族社会に順応するなんて無理だわ。
だって私は、幸せになれと願われてたくさん大人達から言葉を贈られて育った、自由な田舎町の娘なんだから!
貴族の絡め取るような言動に、流されてなるものですか!
「愛が欲しいならこんな逃げ道をなくすようなことをしないで正面から来なさい。私は納得できないこと、そのままにしないわ」
搦め手が有効な相手だったら、多少納得できなくても愛に生きるような人なら、スタンの言葉に頷いたでしょうね。それか、私しかいないならと覚悟を決める人も居るかもしれない。
私は違うわよ。
こいつは詐欺師だから、しつこいくらい慎重に見極めないと泣きを見るんだから!
「逃げ道を潰さないと、メイジーは飛んで逃げてしまいそうなのに」
「逃げられるようなことしてんじゃないわよ馬鹿なの?」
嫌がられるから逃げられるのよ。嫌がられることをするからだめなの。おわかり?
胸ぐらを掴まれたまま、スタンは愉快そうに笑う。
「メイジーが平穏を望んでも、僕はそれを与えてあげられない。あの別荘に君を保護したみたいに、どこにも行かないよう囲ってしまうかもしれないよ」
「やってみなさい受けて立つわよ。アンタが私をねじ曲げるなら、私だって持てる力全て使って抵抗してやる」
スタンが公爵みたいに私を閉じ込めるというのなら、徹底抗戦する。
「不敬罪って言われてもぶん殴ってやるわ。それもできないってなったら…」
それもできないくらい暴走するなら。
「私が私であるために、絶対呪ってやるからな!」
愛のキスなんて期待しないで。そんなのでしか証明できない愛とかいらないわ。
それに話を聞かない男に贈れるものなんて、口付けじゃなくて平手か呪いくらいよ。
宣言した私を見上げて、スタンは笑う。
「それでこそ君だ」
本当に嬉しそうに、笑った。
「じゃあまずはお付き合いということでよろしくね」
「しょうがないから見極めてやるわ」
「お前らなんでそれで通じ合うの?」
モーリス煩い。
もっと殴れ! 踏むんだ!! って思いながらも、スタンがちゃんと謝ったので拳を下ろしたメイジー。
今後の対応によりぶん殴るし呪う気満々。キス? しないわよ!!!!!!!!!!!!
メイジーとスタンは おつきあい を はじめた。
婚約はしていないが、婚約目指してスタンがアップを開始。




