138 呪ってよメイジー
皆さんからの殴れー! という声援(?)を頂く度、メイジーの拳が光って…あれ? メイジーの様子が…。
愕然と見下ろす私に、微笑んだままスタンが続ける。
「知っているよね? どんな呪いも、真実の愛の前には無力だ。そして王は王妃にどんな呪いにも打ち勝つ愛を捧げている」
――――そう、真実の愛の口付けができる相手を、伴侶に選んでいる。
「今は失われてしまったけれど、昔はちゃんと確かめていたんだよ。愛の試練ともいわれていた。いつの日か恐れが勝ってなくなってしまったけれど…愛の証明は必要だよね」
私を抱き上げたまま、スタンがくるりと回る。ゆらゆら揺れるからバランスをとるのが難しく、しがみ付く手を放せない。彼の金の髪が弧を描いて靡いた。
「だからその愛を証明するために。僕を呪ってよ、メイジー」
その呪いを、君への口付けで解いてみせるから。
愛が呪いに打ち勝つのなら、それは何よりも確実な愛の証明に繋がる。
喉が貼り付くような渇きを覚えて、ゴクリと唾を飲み干した。
視線が抱き上げられながら見下ろしたスタンの薄い唇に向かって、勢いよく首を振る。とんでもなく、叫んで暴れたくなるくらいの羞恥心が腹の底から湧き上がって胸を擽った。
なんだこのソワソワ。やめてやめて。そんな場合じゃないでしょ。
「っていうか真実の愛の口付けってそんなあっさり叶うもの!? それなら本当に、心の底から、自分でなんとかしなさいよ国王陛下! 王妃相手に昔ながらの愛の試練とやらを! しなさいよ!」
「ごもっともだね」
頑張って視線を横にずらすが、至近距離で見上げてくるスタンの視線から逃げるのは至難の業だった。下にいるより上にいる方が視線から逃げられない。俯けばよかったところを抱き上げられたから上しか逃げ道がない。
こいつまさかここまで計算して私を抱き上げたの? ありそうでいや!
「真実の愛の口付けって、片方が心から愛していればできるんだよね」
「えっ何それ知らない通じ合ってこそ真実の愛じゃないの」
「ありがたみを持たせるために、情報操作で王家の人間しか知らないんだ。これでメイジーも王妃に一歩近付いたね」
「ぎゃあ!?」
「陛下は特別になりたいくせに臆病だった。愛する人の本心を知るのが怖かった。そんな恐怖に打ち勝って愛を証明するのが愛の試練だけど、自分の功績より娘の功績で偉ぶろうとした。陛下は他力本願で臆病だったんだ」
「いいとこないわ本当に」
「ないから特別に憧れていたのかもね」
平和が続いたのも暴走の原因の一つだ、とスタンは言った。
警戒すべき相手がいないからこそ、気の緩みが目立ったと。
「愛の試練は、似たようなことを考える人たちが続いたから廃れてしまっているんだよね。王妃の条件を確実にするためにも、陛下みたいな驕りをなくすためにも、愛の試練は僕の代から復活させるべきだと思わない?」
ああああ陛下のあり得なさで誤魔化しきれないというかスタンの方が上手で何を言ってもこの話題に戻って来そうな気がする! この体勢でしたくない話題なのに逃げられない! 座っていればよかった!!
蹴りたくても足をガッチリ抱えられていてできないし!
憎らしい! この男の笑顔が心底憎らしい!
「か、勝手に蛙にでもなったら!?」
「君が呪ってくれないの?」
「煩い降ろせ放せ離れて! モーリス! モーリス! スタンがご乱心よアンタの主でしょ早くなんとかして!」
「俺には無理だし、そいつはお前に会ってからずっとご乱心だよ」
「酷いな君たち」
なんとかして逃げなければとモーリスを巻き込もうとしたけど速攻で逃げやがったわあいつ!
いつも口うるさいんだから今日も煩く介入してきなさいよ!
いいえ言うほど口うるさくもなかったわね、いつも一言多いだけで!
なんて余所見したのが悪かった。
「メイジー」
私を抱き上げていたスタンの手が、腰を支えていた手がするりと背中を撫でる様に上がり、私の首裏に添えられた。私は首を反らすことができなくなる。
私を見つめる、空色の目から逃げられなくなる。
「逃げちゃだめ」
逃げ道を塞いでおいて何を言っているんだこいつ。
その言葉に。
私は思いっきり、スタンの額に頭突きを繰り出した。
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愛の口付け、その愛が恋愛じゃなくても可能だと教えないスタン。
呪われている相手に口付けるのが難しい。そこに怯えや不快感があればNGになる。
メイジー「オラァ!!!!!」(頭突き)(いいねに込められた数字*話数138の威力)
スタン 抱き上げている相手からの攻撃に逃げ場もなく被弾。
すたんは さけられない!
護衛のモーリス は 頭を抱えた。




