137 愛があれば許されると思うなよ!
ぐぎぎ、と唸りながら踏ん張る私。
スタンは無理矢理踊り続けることなく、動きを止めた。けれどダンスホールドはそのままで、接近した距離も思ったより離れない。少しでも離れようと上体が反れて、海老反りになる。
感触的には添える程度の力加減なのにぜんぜん離れないってどういうこと!?
「今のところそういう問題は起きていないね。愛されていることが絶対条件だから、そもそもそういう女性は選ばれない」
「特殊嗜好を持つ王族が生まれたらどうするのよ!?」
「使い方が違う気もするけど…王が愛した女性に問題がある場合、その女性は籠の鳥かな」
「愛があれば許されると思ってない!?」
「思っているかも」
いい笑顔しやがって! いい笑顔しやがって!!
逃げようとする私の腰を支える手が微動だにしない。まったく距離が空かない。こいつの片手と私の全力が同等の力って納得いかない!
「今こそ裁判所の出番じゃない!?」
「はは、王妃の条件はしっかり法に記されているから解決しないよ」
「愛を語れば許されると思うなよ!?」
最低条件が愛ってなんだ。政治や外交に関与しないとか、子供を生まなくても許されるとか、なんだそれ。
本当に愛だけが必要なのか。庶民は綺麗に取り繕った部分しか知らないから混乱する。
だって普通に、国王夫妻は仲睦まじいという噂を漠然と信じていた。それだけだった。
「いいじゃないか。王族は国の奴隷なんだ。それでも王家の人間は、たった一人の愛があれば万人の奴隷にだってなれる」
陛下はちょっと色々間違えていたけれど、生来王族はそういうものらしい。
お伽噺が大好きな国民性の、真実の愛を信じる国の王族は、愛があれば国のため生涯を捧げることを厭わない。
愛が一つ、あるのなら。
「だからって、これからどうでるかわからないんだからもうちょっと考えなさいよ王妃の条件!」
「それを考えるのは、王の役目だね。王妃として一緒に考えてくれる?」
「し、知らないわよそんなの! だいたい愛されている証明だってできないのにそれが絶対条件っておかしいわ!」
「そうだね。普通はそうだ」
ぐがががっと踏ん張っているが、やっぱり距離は変わらない。がっちりホールドされた腰は抱き寄せられた状態のまま。何なら後ろに反りすぎて足が浮きそうになっている。
なんて思ったら、後ろに反れていたメイジーを追いかけるようにスタンが前屈みになった。
バランスが崩れて踏ん張っていた足が浮く。ひっくり返りそうな浮遊感に慌てて目の前のスタンにしがみ付いた。すかさず浮いた足を掬うようにスタンの手が回り、腰を挟むように支えられ、あっという間に縦抱きで持ち上げられる。
「だから、呪ってよメイジー」
至近距離で見下ろすスタンは、私を愛おしげに見上げていた。
「その瞬間、君にキスをさせて」
とんでもねぇことしか言わない、こいつ。
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よろしくお願いします!
愛の証明をしたいスタン。
呪いたいけど一気に呪いたくなくなったメイジー。




