124 第三の敵
結局本邸にはお母さんとエヴァ、数人の護衛が行くことになった。
別邸の談話室に残されたのは私とスタン、そして控えているモーリス。他にも使用人はいたけれど、スタンの指示で下げられた。
…ここ、公爵邸よね。こいつ一日で掌握しすぎじゃない?
それとも最高権力者だから使用人もあっさり従うのかしら。よくわからないわ。
ちなみに本来であれば「公爵家の人間」であるメイジーが指示を出すところだが、メイジーにそれは無理である。
「さて…まずは僕らの事情を説明しようかな。その方が公爵の事情も説明しやすい」
「お母さんから話を聞いたから、正直公爵視点の話はいらないんだけど」
本気でどうでもいいわ。
何を言い訳しても監禁犯は監禁犯で、誘拐犯は誘拐犯なのよ。傷害も偽造も追加だし、犯罪者でしかない。普通に捕まえて牢屋に入れるべきでしょ。それとも公爵っていう立場から見逃されるの? だとしたらもう何発か殴らせなさいよ。
スタンの事情はともかくその後の話はいらない。お母さんも公爵と話した後は別邸に戻ってくると約束したから、話が長くなっても困る。
帰ってこなかったら私が本邸に乗り込まなくちゃいけないんだから。素振りしながら待つわ。
「まあそう言わないで。メイジーの敵にも関係している話なんだ」
「私の敵…?」
公爵以外の敵?
スタンのこと?
今一番殴らなくちゃいけないのは公爵だけど、次点でスタンよ?
「あれ、忘れている? それとも順番が変わっているのかな」
「順番…あ」
言われて気付いた。いたわね、後回しにしていた奴。
そう、エヴァを呪った誰か。お母さんの件が片付いたら絶対あぶり出してやると決めた犯人。
――――ここで私は、スタンがお母さんの付き添いにエヴァを選んだ理由を察した。
スタンは、エヴァにこの話を聞かせたくなかったのだ。
エヴァを呪っている奴の話を。
だから何かと理由をつけて、この部屋から離席させた。なんなら、お母さんにも聞かせたくなかったのかもしれない。
「…スタン達の事情って…スタンが私を保護した理由、ってことよね」
以前話を聞いたとき、スタンは私を屋敷に連れてきた目的を保護だと言った。公爵の関係者だからだと。結局あのときは、詳しい内容を聞くのを忘れてしまった。
「それと、エヴァを呪う奴が関わってくるの?」
「間接的にね。僕も最初は、ここまで関わっているとは思っていなかった」
そう言って、スタンは一度目を伏せた。
青空のような瞳が、とても静かに開かれる。
「エヴァを呪っているのは…呪うよう魔女に依頼しているのは、国王陛下だ」
「…はあ゛ぁ゛?」
思わずガラの悪い声が出た。
国王陛下? 最高権力者が何してるの?
いいえそれよりも…つまりそれって。
つまりそれってエヴァの、イヴァンジェリン王女の父親では。
「権力のある男は揃いも揃って毒親か!?」
「まともな人も居るよ」
王族の頂点と貴族の頂点がやらかしているから説得力ないんだけど!?
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察して居る人の方が多いけれど、メイジーは何も知らない。
メイジーだけ何も知らないのである…!




