118 堂々と虚偽報告
堂々としている公爵を見ながら、スタンはゆったりと口を開いた。
「そういえば公爵は、つい先程屋敷に帰ってきたようだね」
「ええ、夜会の帰りに仕事を思い出しまして、お恥ずかしながら済ませて参りました」
「そうか。恙なく終わったのかい」
「はい、問題なく。殿下が心配なさる不備はございません」
…こんな急にお仕事の話するわけないから関係あるんだろうけど察せない。つまりどういうことよ。
「では、彼女は間違いなく公爵家の娘なんだね」
「はい、その娘はマーガレット・エフィンジャーと申します」
誰それ。
ぽかんとした私。母の怒声。
「ジェイラス!」
「だめだナディア。今私は殿下と話しているのだから、後でたっぷり話そう。私は君と殿下が口を利くのも許せそうにない。わかってくれ」
殿下との話を邪魔するなじゃなくて殿下とお母さんが話すの妨害したいんかい!!
なんかぶれなさすぎて気持ち悪い。
というかなに、どういうこと。マーガレット? 誰それ。
混乱する私を置いてけぼりで公爵とスタンのやりとりは続く。
「先に謝っておこう。公爵が到着する前に夫人とは少し言葉を交わしたんだ。夫人はどうやら足を患っているようだね」
「治療中ですし、家庭の事情です」
「そうか。ちなみに私はどちらの言い分を信じるか、調査することも可能だが」
「勿論調べて頂いて結構ですが、これは我が公爵家の問題ですので、殿下が介入なさる必要はございません」
「確かに国家に関する問題でないようなら、王家は介入することはできないね」
スタンはやっぱりゆったりとした口調で、空色の目を細めた。
「例の魔女が関わっていたら話は変わるが、どうだろう」
一瞬口を閉ざした公爵だが、すぐ口を開いた。
「…陛下はお許しになるでしょう」
「そうか」
スタンは笑っていた。
いつもの微笑みではない。底冷えするような、笑っているのに笑っていない、空色の目が凍てついた真冬の湖みたいに冷たい。
それなのに、にっこり笑う。
「それなら仕方がないね」
そう言って、スタンは私を振り返った。
「どうやら君はメイジーではなく、マーガレット・エフィンジャーとして戸籍がしっかりあるようだ」
「は?」
「正確に言うと、つい先程綺麗に偽造して来たみたいだ。恐らく魔女の力も借りている」
…仕事がどうのってそれのことかぁ――――!!!!
私を見て一目で我が子と理解した公爵。
今まで放置していたくせにどうしてか私を拉致して屋敷に放り込み、その足で17年前に娘が生まれていた戸籍情報をねつ造。それだけでなく、人目から隠れて過ごしていた令嬢の情報をあちこちに紛れ込ませた。
魔女の力も借りたって、普通ねつ造できないところまでねつ造してきたってこと?
それをこの短時間で熟して戻って来て、今ここ。
はぁ――――!?
「詐欺…! 職権乱用…!」
「田舎町で育ったメイジーという庶民の存在は書き消されるだろうね」
簡単なことだ。秘匿の呪いをかければいい。
精神操作の呪いだと、一般の使用は禁じられている。しかし国家に携わる魔女は機密を守るため禁じられていない。
切っ掛けがあれば解けてしまう呪いだが、メイジー達が田舎町に戻らなければ彼らはメイジー達の存在をぼんやりと靄のかかった存在として忘れてしまう。
そもそも彼らはネイがナディア公爵夫人と知らず、メイジーがマーガレット公爵令嬢と知らないのだ。その気になれば田舎町で育った年月など忘れられた過去にされてしまう。
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察して居た人も居ましたが、メイジーの本名(貴族名?)はマーガレットでした。
メイジー 真珠を意味するマーガレットに由来。
ネイ ネイディーンの愛称の一つがナディア。こちらは偽名として採用。
スタン トリスタンからトリを取ってあっさり決めた。彼もまったく拘っていない。
エヴァ イヴァンジェリンの愛称…本当は別の愛称を使用するが、敢えてエヴァと呼ばれている。名付けたのは父親。
そろそろ皆さんからメイジーに力を分けて頂けると…蓄えだします。




