107 そこ退いて! そいつ殴れない!!
「落ち着け暴れ猪! それどころじゃないだろ!」
「誰が暴れ猪よ憎らしい護衛め! しっかり守っちゃって! 隙を作ってくれていいのよ!」
「素人にわかるだけの隙を作ったら護衛として失格過ぎる」
その通りね!
「ほら落ち着いてメイジー。まず話の邪魔がされないようにその扉を塞ごう。家具を動かしてバリケードにすれば時間が稼げるよ」
「アンタが仕切ってんじゃないわよ…!」
というかなんでここまで来た。なんでだ。
眦をつり上げて睨めば、さりげなくモーリスに燭台を回収された。おのれ。
「め、メイジー? 何をしているの? 知り合い?」
私の突然の突撃に、お母さんが混乱している。天蓋の向こうで寝台の上を這うような動きをした。
それを見て哀しくなる。
お母さんは本気で歩けない。活発な人なのに、歩けなくされた。
犯人は同じく足を潰さなければ。同じ目に遭え。まずはそれからだ。
「女性の寝室に不躾に失礼します。緊急事態のためお許しを。罰は後ほど受けましょう。まずは彼が部屋には入れないよう、処置してもよろしいですか」
「…そうね。メイジーが危ないわ。お願いできますか」
「ご英断ありがとうございます。さあモーリス、頼んだよ」
「頼むから火に油を注ぐような真似はするなよ」
「大丈夫。メイジーはよく考えられる賢い子だ」
「よく考えてぶん殴ることを決意する場合もあるのよ…?」
そう、諸々の覚悟を決めた拳でね。
「油を注ぐなっつってるだろ…!」
嘆きながら、モーリスはドアノブを縛り付け、軽々と大きな家具を扉の前に設置した。両開きのためドアノブが隣接しており、紐で括ってしまえば開かなくなる。とどめに扉の前に家具を置けば、中開の扉だから紐がちぎれても家具がつっかえて開かなくなる。
これで簡易的なバリケードが完成する。あっという間だった。モーリス一人でこの短時間で作り上げたわ。早い。
「さて、これでしばらくは邪魔も入らない。それでも時間がないから早急に答え合わせといこう」
いいながら上着を脱いで、私の肩にそれを羽織らせた。近付いたスタンの頬はまだ赤く、私が平手を喰らわせた痕跡がある。
それなのにこいつは当然のように近付いて、自然な動作で薄い服の私に上着を羽織らせて、目を合わせて微笑む。
なんと憎らしい奴だ。ぶん殴りたい。
あんなことをしやがったので拒絶したいが、この状況でそれもできない。相変わらず謎の説得力で、なんでも知っているかのような空気を醸し出している。
このよくわからない状況を解き明かし、解決まで導きそうな、そんな空気。
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よろしくお願いします!
むかつくが解決まで導きそうな強者感のあるスタン。
事件解決したら殴ろうね。力を貯めておこうね。応援してくださる方は是非いいねをお願いします。
今まで頂いた応援も足した攻撃力で殴れると思う。




