102 逃走中
ポツポツ灯りのある廊下を、裸足で進む。
ふかふかの絨毯が敷き詰められていた室内と違い、廊下はタイル張りだ。靴がなかったのでそのまま部屋の外に出たが、足音が立たなくてある意味正解だった。
ちなみに靴がないのも部屋の外に出られない理由付けの一つだったがそんなことは知らない。なくても歩ける。お貴族様大丈夫か。
(…うーん、部屋の外にはあっさり出られたけど…階段はどこかしら。二階っぽかったし、とにかく一階に出ないと逃げられないわ)
廊下の窓は高い位置にあり、流石に登って窓から脱出は難しい。途中で見つかったら逃げられない。
廊下にいくつか扉があるが、脱出が目的なので物色はできない。とにかく外に出て、塀を乗り越えたらなんとかなるだろう。
スタンは夜の警備は昼間の比ではないと言っていたが、それは彼が王族だったからだろう。ここがどこだか知らないが、彼の屋敷より警備は甘いはずだ。多分。
(誘拐犯の身元がわかるような物があれば最高だけど、一番大切なのは身の安全よ。私はまだお母さんを見つけていないし、公爵を呪っていないし、エヴァを呪った奴に一発食らわせてないし、スタンに百発叩き込んでいないんだから他の奴の相手なんかしていられないわ)
やられたことは忘れないけどな。手にした燭台を強く握りしめ、薄暗い廊下の先に目を凝らしながら進む。
すると運のいいことに、進んだ先に階段を見つけた。下りと上り、両方の階段を。
下り階段は歪曲しているが、上り階段は真っ直ぐだ。三階建ての建物らしく、こっそり見上げた三階は二階と比べてほぼ灯りがない。
緩く湾曲した階段は一階のエントランスに繋がり、階上から玄関が見えた。流石に馬鹿正直にそこから出られるとは思わないが、一階に降りたらあとはどうとでもできる。思わずほっと息を吐いた。
問題は一階がとても明るいこと。なんとなく行き交う人の気配を感じる。恐らく深夜だろうに、まだ人が歩き回っているようだ。
流石にこの階段を下ったら見つかってしまう。さてどうやって一階に降りようかと悩んだとき、背後で扉の開く音がした。
ぎょっとして、咄嗟に階段側の壁に貼り付く。上り階段に片足が乗った。
細やかな物がぶつかる音。カラカラと回るのはカートの車輪だろうか。それが階段側に来る。
見つかってはならない。咄嗟に下りではなく上り階段を駆け上がり、暗闇の中壁に背中を預けて座り込んだ。
階下で誰かが立ち止まった。
「今音がしなかったか」
「そうだな…誰か上に上がったか?」
ばれてる!?
空いた手で口元を押さえ呼吸を殺す。心臓が激しく脈打ち、握った燭台を身体で隠した。
「三階は立ち入り禁止だろう。執事長はまだ下だし」
「呼んできてくれるか? 俺たちで確認はできない」
(やばい。どうしよう。二人。見張りと呼びに行く人と別れたら対処が…)
しかも中々に慎重だ。立ち入り禁止を守って追ってこないが、しっかり耳を澄ませて階上を窺っている。どう出るべきか悩んだとき、さっと私の横を小さな影が横切った。
横切った影は、軽い足音を立てて階段を下っていく。
「…なんだリスか。え、なんでリス?」
「こいつ頬袋すごいことになってる…」
(腹ぺこリスゥウ――――ッ!!)
なんてタイミングで現れるのアンタ!!
というかアンタもいたの!? アンタ私にくっついてこんなところまでついてきたの!?
ここがどこだかわからないが、行動力がありすぎる。
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