帰り道の出来事 (実話です)
小説家になろう公式でホラー企画開催されているようなので、私の実話体験でも。
最初に断っておきますが私に霊感などありません、知人の葬式や通夜に参加したときも特別なにかを感じたことなど全くないです。
そんな私の身に起きた不可解な話を一つ、後にも先にも霊的な恐ろしさを感じたのは今のところこのときだけです。
20代半ば頃の話です、私は某食品会社に勤務していました。その会社は朝7時~夜12時まで稼働しており、7時~16時の早番と15時~24時の遅番の交代勤務で働く会社でした。
そして私は比較的業務に慣れていたことと家が近かったこともあり、職場の開け閉めも担当しておりました。早番の時はみんなより少し早く行って門や入口ドアのカギを開け、遅番の時は一番最後にすべて戸締りして帰る。他の社員とともに4名ほどでこの役割を交代で担っていました。
26歳頃の夏です、今と同じ7月下旬でしたでしょうか。その日もすべての業務が終わり、私以外のスタッフは全員定時で24時ちょうどに帰っていきました。もう一人の社員も家が遠いので先に帰り、あとは私が一人で鍵やシャッターの確認をして帰るだけでした。
休憩所やトイレの窓、倉庫のシャッター、駐車場のカメラチェック…。あとは作業場の窓と出入り口を施錠確認して帰るだけ。
いつもは機械の稼働音や人間の立てる音で騒がしい作業場も、ひとたび全て停止し私しかいないとなれば恐ろしいほど静かなものです。
私はあまりホラー映画などが得意ではありません、さっさと戸締りして帰ろうと早足で施錠確認をしました。
そして最後のチェックである非常口の施錠確認まで終わらせて、さぁ着替えて帰ろうという時。
ピーーッ!
笛の音が聞こえたのです、作業場のどこからか。
聞き間違えではありません、あの運動会のときなどに学校の先生が吹くホイッスルの音が聞こえたのです。
私は一瞬「?」と思い、思考停止しました。そして冷静に考えたのです。
あれ、みんな帰ったよね?私しか残ってないよね?
っていうか食品会社で笛なんて吹く必要なくない?
そもそも全部の施錠確認してきたのに、誰がどこから笛吹いた?
言いようのない不安と恐怖に襲われ、私は素早く電気を消すと更衣室にダッシュしました。早く早く早く、早く帰ろう!それしか考えてませんでした。
外に出て扉に鍵をかけ、門を閉めて敷地の外に出てようやくホッと胸をなでおろしました。気づけば呼吸を止めていたようで、酸欠になりそうな頭を復活させるようになんでも深呼吸しました。外は夏の熱気でじんわり暑くカエルがゲコゲコ鳴いていましたが、その感じが現実世界にようやく帰って来られたように思えてやっと安心できたのです。もちろん寄り道もせず、一目散に家に帰りました。
-- 後 日 --
その日は業務的に余裕があり、いつもより休憩時間を少しだけ長く取れました。だから20年前からこの会社に勤めているというベテランのパートの女性に聞いてみました。
「あの、先日戸締りをしていたとき誰もいない作業場から笛の音が聞こえたんです。やっぱり私の勘違いですかね?」
パートの女性は視線を逸らしながらあぁ…とだけ言うと、こんな話を私に聞かせました。
数年前、私がその会社に就職する前の話です。
その会社の近くには通学路がありました、小学生や中学生の登下校ルートだったのです。
ある体育祭の朝、小学2年生の男の子が学校へ向かって一人で小走りに歩いていました。その子は一度体育祭で使う応援用のボンボンを家に忘れたことに気づき、登校班から離れていたため一人で学校に向かっていました。
しかしその子の後ろから、運転中にスマホを見ていた"ながら運転"の車が突っ込み男の子は即死。
そんな痛ましい死亡事故がありました。
その子は体育祭で友達と走れることを本当に楽しみにしていたらしく、だから体育祭に出られなかった無念からまだこの世にいるのかも。小さい子だし即死だったから、もしかしたら自分が死んだことも分かっていないんじゃないかと。
そんな話を聞かされました。別の社員に聞いたところ、確かにそのような事故がありしかも私の勤務している会社の裏手が事故現場で花が定期的に添えられているようでした。普段行かない会社の裏手の道だったから私は気づかなかったのです。
なんだか悲しい気持ちになりました。今でもあの子はあの場所で笛を吹いて、友達と一緒に走れるのを楽しく夢見ているのでしょうか?
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※この話は一部フィクションです。
※7/12 更新分です
※筆者は他にも書いているものがあり、更新がない場合は他の作品を更新している可能性があります。〇日更新分ですを目安にしてくださると助かります。