反撃の太陽
アメリカ合衆国 ワシントンD.C. 日本大使館
「自国民党はロシアからの侵略に対抗すると称して軍国主義を推進しようとしているのは明らかです!! 今すぐにでも退陣して、憲法九条の精神に則った外交的に解決することが日本のとるべき道です!! 自衛隊の出動は元より、その存在が憲法違反です!! また総理は防衛相時代に法を無視して自衛隊を出動させるなど、総理どころか政治家としての資質に欠ける憲政史上最低最悪の総理です!! 絶対に賛成してはなりません!!」
日本国内では自衛隊の出動を巡り早期に出動の議決を採りたい与党及び維新・国民党と断固阻止を謀る野党側の乱闘騒ぎが発生。戦時下にあるにも関わらず軍の出動を決定出来ない、主権国家としてあり得ない醜態を世界に晒していた。
「・・・・・一体反対する奴らはどんな神経をしているんだ・・・。」
駐米日本大使を務める檜扇響平は共産主義を掲げる政党、日本コミンテルン委員長の国会における発言に不快感を露にしていた。
「君のお爺様はどうしてあんな輩を根絶やしにしておかなかったのだろうか・・・どうせ独裁をやるのであればあんな奴らから消すべきだろうに・・・」
彼の傍らに控えているのは彼の秘書にして妻の檜扇鳴。彼女の御爺さんに当たる人物は太平洋戦争中に総理大臣を務めた東条英機である。
「あまりそう過激なことは言わない方が良いですよ。」
「分かってる、分かってるさ。だがあれを見て君は何も思わないのかね?」
彼が指さした先には日本の国会中継を映したテレビがあった。
「話し合いでの解決が第一であり、憲法に定められた戦力の不保持、武力を行使しないと言った日本が世界に誇る素晴らしい憲法九条の精神に則り平和的な外交で解決することが必要です!! 総理!! 貴方にはその気はありますか!! 安全な後方地帯で自衛隊員に死ねと言うことが仕事ですか!! それが為政者のすることですか!! 更には横田と入間に自衛隊の戦闘機を事前通告や協議なしに強行配備する等地元自治体や住民の理解なしに進めるその姿勢は当に!!」
「この反日野郎が!! 外患誘致罪で捕まっちまえ!!」
「議長!! 常磐大臣に注意してください!!」
そこには荒れまくっている醜い国会が映し出されていた。
「君のお爺様が残してしまったアカの残党がこうして日本を蝕んでいる。僕はあれを何とかしたいとずっと思っているんだ。君の為にも。」
「・・・・あのお爺様の孫であるにも関わらず結婚してくれた、それだけで満足よ。」
「その血を恥じることはないさ。イタリアではムッソリーニの末裔が選挙でトップ当選したりするしね。しかし、案の定米国は卑怯だよ。同盟国とは名ばかりの従属を強いたのにも関わらず非常事態になればあっさり見捨てるのだからね。」
「核戦争を避けたいのでしょうけど、無情よね。」
「核か・・・我が国にもあればこうはならないのだろうけどね。」
響平はそう言うと机の引き出しを開ける。
「これは?」
「外務省からの極秘命令だ。今この茶封筒の開封時間になった。」
そう言うと彼は茶封筒の開封に移る。
「どれどれ・・・。」
二人は極秘命令の中身を見る。
「・・・・どうやらあの総理、結構前から暗躍してたみたいだね。さて、こうしちゃいられないね鳴。直ぐにオースティン国防長官に会談の要請をしないとね。」
二人は封筒の中身をシュレッターに入れ処分する。その文書に書かれていたのは、
「崩壊の帝国」
と。
東京都 市ヶ谷 防衛省
「しかし、ここは落ち着くね。警備もしっかりしてるし、アカの奴らもいない。」
「首相官邸代わりに防衛省を使うのはどうかと思うけどね。」
「松葉官房長官、そうも言ってられませんよ。官邸はロシアの攻撃で機能不全。国会は野党により同じく機能不全。下手すりゃ僕の命も危ないですよ。かと言って立川じゃ遠いし、また撃墜されるかもしれない。それならなじみのある防衛省の方が良いですよ。さて。」
若葉総理は桔梗隼人、東花満、黄金勇気の三人を呼び出していた。彼らを前にある茶封筒を手渡した。
「総理、これは?」
「今は何も答えられない。ただ言えるのはそれを持って桔梗隼人国家公安委員会委員長にはカナダ、東花満経産大臣にはオーストラリア、黄金勇気国交大臣にはニュージーランドに行ってもらう。」
「「「へ?」」」
「気の抜けた返事になってしまうのも無理は無い。だけど、これは必要なことなんだ。各国に分散することで内閣の機能不全は回避出来るし。」
「ですが、中身も分からずに行って何になるのですか?」
「東花大臣、既に各国の日本大使は動いている。後は僕の特使として君達が行くだけで良い。カナダへは僕の従姉が英国に行くから同乗して途中で降ろして貰え。オーストラリアへは輸送機が横田から離陸するからそれに同乗、ニュージーランドへは同じ輸送機で一度オーストラリアへ行った後に乗り換えて行ってくれ。既にオーストラリア、ニュージーランド両政府の了解は出ている。」
三人はよく分からないまま総理の特使としてそれぞれの目的地へと向かった。
「松葉官房長官。」
「何だい響君・・・若葉総理。」
「もしかすると僕はこの戦争で死ぬかもしれない。その時は松葉さん、貴方が総理ですよ。」
「縁起でもないことを。」
「そうならないと良いけどね。さて官房長官、例のあれを実行したい。準備は出来ているね?」
「うん。8/9には実行可能さ。」
「そうか。本当は明日にでもやりたいところだけど、それは出来ない相談だね。」
「お前ら、俺の防衛省で好き勝手してんじゃねえぞ!!」
「あ、シルバーいたんだ。」
「いて悪いか!! 俺は防衛相だぞ!!」
「だって官邸はボロボロじゃん。シルバーもボロボロにした一人だし。」
「君は国会でも失言してボロボロだし。」
「うっせえ!!」
「それで、ロシアの動きは?」
「話を無理やり変えるな!! まあいい。英国からの知らせでは北海道・青森の重要拠点に精鋭による空挺作戦の可能性だそうだ。」
「重要拠点? 具体的には?」
「それは分からないそうだ。それと英国を中心とした援軍が間もなく横田に到着する見込みだ。」
「そうか。」
英国からもたらされた重要拠点。それが一体どこなのか。若葉総理はひたすらにその場所を思案していた。
(重要拠点・・・制空権を確保するのであれば千歳や三沢、制海権を確保するなら大湊や哨戒機部隊のある八戸・・・しかしレーダーサイトや戦車部隊の駐屯地もあり得るか)
「守るところが多すぎるね、シルバー。」
「ああ。だが良いのか?」
「何が?」
「三沢からF2やF35を引き上げて横田や入間、松島に配置。代わりにF15を配置。これでは上陸前の敵を叩くことは出来ないぞ。」
「うん、叩くことは出来ないよ。」
「なら何故!!」
「シルバー。」
若葉総理は悲しげな笑みを見せる。
「我が国は撃たれて、誰かが死ななきゃ自衛隊を動かすことは出来ないんだ。上陸前の敵を叩くことはそもそも憲法的に出来ないんだよ。」
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「プーチンチン大統領、我がアメリカとしてロシアとの核戦争は絶対に避けたいのですよ。」
日本が英国を始めとした英連邦国家に調略の手を伸ばしている一方でアメリカはロシアと電話会談を行っていた。
ロシア連邦 モスクワ クレムリン
「バイデンデン大統領、我が国と友邦ベラルーシへの経済制裁解除とウクライナ支援の終了、稚内・根室両人民共和国の独立を承認。それらを飲んで頂けるのでしたら即刻兵を引きましょう。」
完全にアメリカを手玉に取っているロシアのプーチンチン大統領はアメリカ側に無理難題な要求を突きつける。
「・・・・そうですか。受け入れて貰えませんか。それは残念ですな。もしかしたら貴国と核戦争になってしまうかもしれませんな。ですがそれは貴国が望んだことですから仕方ありませんな。では。」
そう言うとプーチンチン大統領は電話を一方的に切る。
「さて、パトソール君。」
「はっ! ここに!」
「私は明日協定の調印を行う。君は明後日の作戦に向けた準備の最終段階に移るように指示を出したまえ。」
「了解致しました。」
「それとパトソール君。」
「何でしょうか?」
「もしこの特別軍事作戦が成功した暁には君をウクライナ大統領にする。良いな?」
「私が一国の大統領ですか? それは身に余る光栄でございます! 必ずやこの作戦を成功させます!!」
「うむ、今の私には君だけが頼りだ。頼むぞ。」
(今頃ホワイトハウスの連中は大喧嘩になっているだろうな。稚内・根室の領土化等最初から期待していない。というか、パトソール君の立案でもそうなっていたしな。あくまで米国の譲歩を引き出すための釣り餌でしかないからな。だが、受け入れないのであれば受け入れざるを得ない状況とするまで。バイデンデンよ、この私を甘く見ないことだな)
アメリカ合衆国 ホワイトハウス
「大統領!! プーチンチンが無理難題を突き付けて来たとのことですが?」
「ブリブリケン国務長官、奴らは本気でジャパンを攻撃するつもりだ。」
「お言葉ですが大統領、既にロシアはジャパンを攻撃しております。本気も何もありません! 前にも申し上げましたがペンタゴンではジャパンへの援軍を何時でも送れる用意をしております!! 既にブリティッシュやオージーは軍を派遣しております。我が合衆国も続くべきです!!」
「私も国防長官に全面同意致します。もしここで我が合衆国が軍を出さなければ同盟国から不信感を持たれ、NATOを始めとする軍事同盟は瓦解してしまいます。あとは閣下の決断次第ですぞ!!」
「駄目だ駄目だ!! それでは人類が滅亡する!! 核戦争は避けなくてはならない!! 我が合衆国は引き続きロシアとの話し合いを続ける!! どうにかしてでもロシアとの戦争を避けるのだ!! 核戦争回避の為なら経済制裁の段階的解除、ウクライナへの軍事支援の停止を認めると伝えよ!!」
「大統領!! それでは国民が納得しません!!」
「軍の反発も避けられませんぞ!!」
「うるさいうるさい!! 人類の滅亡とジャパン、君達はどっちが大切なのだ!!」
英国 ダウニング街10番地
「それで首相、ニッポンの大使からは何を言われたのですか?」
「ああ、実にエキセントリックな内容だ。」
「と、言いますと?」
「新たな世界秩序構築の為、協力しようとのことだ。同じ内容はカナダ、オーストラリア、ニュージーランドにも伝えられているとのことだ。」
「こ、これは・・・!! これは世界が変わりますな!!」
「ああ。我が英国の影響力強化をこのような形で実現出来るようになるとは思わなかった。だが、我が国にも意地がある。フィンランド、スウェーデンの首脳と電話会談を行いたい。この同盟に彼らも引き込むのだ。大陸の奴らに盗られる前にな。」
「は!」
「それと、ミスター・ワカバにある提案をしてくれ。例の同盟の名前をな。既に考えてある。」
その後英国から送られた名称を若葉総理が同意し、各国は密かに詰めの協議を開始することになった。
「そう言えば、僕がまだ防衛大臣だった7月に出港させた護衛艦「あしがら」、「あきづき」、「あさひ」、「もがみ」、補給艦「おうみ」は順調に英国に向けて航海中かい?」
「8月中には英国に着く予定だ。しかし、何故主力の護衛艦をわざわざ大西洋まで持って行くんだ?」
「シルバー、これはロシアに対する圧力の為なんだ。分かってくれ。」
「よく分からねえがお前が言うならそうなんだろうな。」
「ふふふ、もう響君が防衛大臣と総理大臣の二刀流だね。」
(続く)