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崩壊の帝国  作者: 東海鯰少佐
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機能不全

8月7日 日本国 国会議事堂


先の大戦で軍民合わせ多数の死者を出し、戦後は米国の従属化の元で平和を謳歌していた日本国であったが、昨日の稚内・根室での武装蜂起、総理搭乗の自衛隊機撃墜、直後に発生した首相官邸襲撃と地下鉄への毒ガス散布等後の世に東京事変と称される戦後の日本のあらゆる政策の大転換点となる日を今迎えようとしていた。


「・・・・厳重な警備だな、姉さんそう思わない?」

「厳重って、敷いたのは防衛相でしょうに。」


この日響はシルバーや栗栖と共に同じ黒塗りの高級車で国会へと移動していた。一昨日に東京が戦場になったばかりということもあり、国会周辺は完全武装した自衛隊員で固められ、それらに繋がる地下鉄駅や幹線道路には警視庁や応援でやって来た神奈川県警や埼玉県警を始めとする関東の警察組織が多数の警備車両を用いて厳重警戒していた。また羽田や成田の民間機の乗り入れが無期限中止され、首都上空は自衛隊、警察、海保、更に同盟国アメリカの航空機が飛び交い、空からの攻撃に備える体制が取られていた。また基本的には戦闘機部隊の配置がない横田・入間の空自の基地に緊急的に戦闘機部隊が配置され、百里と合わせ鉄壁の守りを作り出していた。昨日は全ての艦艇を出動させていた海自は規模を縮小しつつも、海保が穴埋めする体制を取り、引き続き東京湾を封鎖していた。


「おいおい良いのかよあれ? 無許可なんじゃないのか?」


シルバーが指さした先には何やら物騒な旗や横断幕を掲げた団体がデモを行っていた。


「軍国主義を復活させようとするアベカワ政治の亡霊、若葉ヒビキを許すなー!!」

「政府は戦争ではなく暮らしを大切にしろー!!」

「アメリカと共に戦争できる国造りを我々は許さないぞー!!」

「お前の代わりはいくらでもいるぞー!! 今すぐ辞職しろー!!」


無論それは毎度おなじみの左翼勢力によるデモ行進である。事実上の戦時下にある東京では右派左派問わず全てのデモ活動に対して許可を出さない方針を臨時総理として命じていたが、活動家には関係のないことだった。


「無許可のデモ活動は許されません!! 今すぐに解散しなさい!!」


警察が拡声器を用いてデモ隊に解散を指示する。しかし彼らにはどこ吹く風と言わんばかりにデモを続ける。


「貴方方のデモ活動を始め、右派左派全てのデモ活動は許可されていません!! 今すぐに解散しなさい!! 解散しない場合は実力行使もあり得ます!! 今すぐに解散しなさい!!」

「言論の自由を侵害する自国民政権を打倒せよ!!」

「稚内・根室の解放軍と協力して自国民党の人間を追放しよう!!」



「・・・・・ろくでもない奴らだね。」


国会へと向かう車の中で響はそう呟いた。


「国会の中もそんな奴らばかりだけどな。」

「それは言わないのシルバー! 仮にも貴方はこれから防衛相になるのよ。言葉遣いには気を付けなさい。」

「へいへい。」

「二人とも、もうすぐ入口に横付けされるよ。」


自衛隊・警察の厳重警備の元三人は国会へと降り立つ。


「・・・・日本の歴史が変わる。今僕はその最前線に立つ。」


響達は国会へと入場。その後自国民党の控室へと案内される。



国会内自国民党控室


「若葉総理!! お待ちしておりました!!」

「その呼び方は止めてくれ。今はまだ防衛大臣だ。なるのはこれからだよ。」


響は自国民党の幹事長を務める茂木俊三と会談した。


「閣僚だけど、僕の意向を反映させてもらう。不服ではあるとは思うけど、今は国家の危機だ。無用な混乱を生じさせるべきではない。」

「無論です。何よりこの緊急事態では火中の栗を拾う覚悟のある政治家等いないでしょうから・・・。」

「何なら幹事長、貴方が総理をやりますか?」

「な、何を申されます!!」

「冗談だよ。」

「し、心臓に悪いです・・・総理。」

「それじゃあ、僕は公正党の人と会いに行って来るから。」



国会内公正党控室


「山口夏雄代表、一昨日の貴党の斎藤鐡夫大臣が亡くなられましたこと、我が党としましても万感の胸に障る物であります。」

「お気遣い感謝致します。それで、引き続き我が党と自国民党は連立政権を組み続ける、それで構いませんな?」

「無論です。公正党も我が党もベテラン閣僚が無残にも殺され、否が応でも世代交代を迫られております。この者であれば自公政権は維持されるでしょう。」

「それはありがたい。それと以前から言われておりました憲法改正の件ですが。」

「公正党は九条の改正には消極的なのでは?」

「それが、どうも我が党の支持者の中からも改正に前向きの声が出てきておりまして。」

「・・・・・・・そうですか。」



国会廊下


「それで、山口はなんて?」

「憲法改正に今後は応じたいとさ。」

「意外だな。公正党のことだからこんな事態でも渋りそうだと思ったんだが。」

「シルバー、公正党は権力に対しては貪欲な政党だよ。今の世論で改正反対なんて訴えれば後ろから刺されるよ。冗談じゃなくてね。まあ、そんなことよりまずは総理になることからだけど。」



衆議院本会議


「・・・・投票の結果、若葉響君を内閣総理大臣に指名することに決まりました!!」


戦時下という緊急事態。誰も拾いたくない火中の栗。唯一生き残った主要閣僚。様々な要因が積み重なり、防衛相であり、参議院議員である若葉響は日本の憲政史上初の参議院の総理大臣となった。また同日参議院でも投票が行われ両院で選出され、速やかに組閣が行われることとなった。


衆議院本会議


「それでは閣僚名簿を発表致します。」


普段であれば総理官邸で行われる閣僚名簿の発表。しかし、昨日武装勢力に襲撃されたばかりであること、緊急事態であり移動にはリスクがあること、また速やかに自衛隊出動の議決を取りたい若葉政権の思惑もあり、与野党の国会議員の眼前で閣僚名簿を発表することとなり、その光景が全国に生放送されるのであった。総理大臣には若葉響参議院議員、空白となる防衛相には副大臣だった常磐銀地が昇格する形で就任、外務相も同じく副大臣で総理の従姉の若葉栗栖が就任、副総理には安倍川内閣で最強の官房長官と恐れられた菅義秀氏が就任、官房長官には大臣経験0のイケメン、京都選出の松葉鳳氏が就任、国家公安委員会委員長には警察官の経験のある奈良選出の若手桔梗隼人氏が就任、経産大臣には東花満氏、そして公正党が閣僚を出す国交相には期待の若手黄金勇気が就任。総理と同じ年齢、同じく当選一回目という一番のサプライズ人事であった。またそれ以外の閣僚は全て留任し、本当にいなくなった閣僚を穴埋めした臨時内閣となった。また就任式や写真撮影は省略され、速やかに国会に自衛隊の出動を認める議決を若葉内閣は提出するのだが・・・



立憲国民党 和泉ケンタ


「若葉総理、貴方は話し合いで解決するという考えは脳にはないのでしょうか!! 戦争を指示する貴方は安全地帯にいるかもしれませんが、実際に戦場に行く自衛隊員のことを考えたことはあるのでしょうか!!」



日本コミンテルン 志位和汚


「自国民党はロシアからの侵略に対抗すると称して軍国主義を推進しようとしているのは明らかです!! 今すぐにでも退陣して、憲法九条の精神に則った外交的に解決することが日本のとるべき道です!! 自衛隊の出動は元より、その存在が憲法違反です!! また総理は防衛相時代に法を無視して自衛隊を出動させるなど、総理どころか政治家としての資質に欠ける憲政史上最低最悪の総理です!! 絶対に賛成してはなりません!!」



令和新撰組 大石アキ子


「戦争よりも、暮らしが第一です。暮らしより戦争を重視する若葉政権は今すぐにでも退場して頂き、国民の為に働く政治家が総理になるべきです!! 消費税の減税が出来ない自国民党政治!! 話し合いより武力の自国民党政権!! 法令無視の若葉響とかいう屑!! 絶対に許されない存在です!!」


左派政党から猛反発を受け、更に議決は性急だとして議長に野党議員が群がり、暴力で以て採決阻止を謀った。


「この反日野郎が!! 外患誘致罪で捕まっちまえ!!」


常磐銀地防衛相が群がる野党議員目掛けて指を指すと共に野次を飛ばす。これに野党議員が反応。更に国会が荒れに荒れまくってしまう。


「内閣不信任だ!!」

「速記を止めろ!!」

「問責決議だ!!」


この日は国会が荒れすぎて議決どころではなくなってしまう。この日は散会となったが、野党側は国会軽視の若葉内閣は信用できないとして翌日に若葉内閣への内閣不信任案と常磐銀地防衛相に対する問責決議案を提出すると宣言。この動きは若葉総理に対して早くも総理としての重大な決断を強いることとなるのである。


(続く)

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