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崩壊の帝国  作者: 東海鯰少佐
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動き出す大国達

稚内・根室に謎の武装勢力が蜂起して約10分後


 


アメリカ合衆国 ホワイトハウス


 


「何度も私に同じことを言わせないでください大統領!! もしここでジャパンを見捨てれば取り返しのつかないことになります!!」


「くどいぞオースティン!! ならぬものはならぬのだ!!」


 


第二次世界大戦で大日本帝国とナチスドイツを倒し、冷戦ではソビエトに勝利した超大国アメリカ。その権力の象徴たるホワイトハウスではジョー・バイデンデン大統領とロート・オースティン国防長官による激しい口論が行われていた。無論その原因は日本に現れた謎の武装集団についてであった。


 


「現地に潜り込ませているCIAの工作員やジャパンの防衛省、更にはUKからの情報を精査した結果、あれはロシア軍の正規兵による侵略行為であるとペンタゴンでは判断しています!!」


「それはあくまでペンタゴンが勝手にそう判断しただけのことだろう!! 現時点ではロシアからは何も出ていないし、我が国とジャパンは同盟国だ。そんな愚を犯すわけないだろう!!」


「しかし、ロシアはその愚を犯しているのです!! 既に我が合衆国軍は総動員体制に移っています!! ジャパンやコリアの部隊に加え、アラスカやハワイ、グアム、カルフォルニアの部隊も出動準備に移っています!! 後は大統領の決断と議会の賛成があればホッカイドウのロシア軍を排除するにとどまらず、アラスカからカムチャッカに上陸し、背後から挟み撃ちとし・・・」


 


言葉を続けようとしたオースティン国防長官であったが、それをそれよりもでかい声量でバイデンデン大統領がかき消す。


 


「君はあれをロシア軍だと言うが、仮にそうならより一層我々は介入するべきではないだろう!! 君達ペンタゴンは核戦争がしたいのか!? この自殺願望の集まりの愚か者が!!」


「大統領!! 流石に言葉が過ぎますぞ!!」


「黙れ!! 若造が私に意見するな!! 良いか!! とにかく我がアメリカ合衆国はジャパンとロシアの争いごとには一切介入しない!! そしてあらゆる手段を用いて停戦させるのだ!! 良いな!!」


 


そう言うと大統領は国防長官を部屋から追い出してしまう。その際に国防長官は大統領にこう捨て台詞を吐いた。


 


「この決断、我が合衆国の、帝国の崩壊に繋がるでしょうな。」


 


 


英国 ダウニング街10番地


 


首都ロンドンの中心部、シティ・オブ・ウェストミンスターのダウニング街の一角に位置するダウニング街10番地。300年以上の歴史があり、英国首相の住処である。ここではアメリカの動向を秘書から報告を受ける英国首相、リシ・スナックの姿があった。


 


「それでルーク君、ヤンキー共は動かないと。」


「はい。先程米国から極秘回線で連絡がありました。核戦争という人類史上最大の愚行を犯さない為、何より平和的外交的解決を目指す為に最善の手をとった、と。」


「最善の手? あのヤンキーも落ちたものだな。一昔前なら適当な理由を付けて戦争を吹っかけていたのだがな。イラクとかアフガンとかな。」


「しかし、同盟国。それもどの国よりも親米国であるニッポンを見捨てるとは・・・。これでは我が英国も有事には見捨てられてしまうのではないでしょうか? わが国だけではカナダやオーストラリア、ニュージーランドを防衛する事は不可能です。もしアメリカが出てこないとなれば、それらの国々を見捨てなくてはなりません。」


「ルーク君、君の懸念は痛い程分かる。何より私自身もそう思っているのだからな。同盟という言葉の意味をあの痴呆爺に教育してやりたいぐらいだ。」


 


スナック首相は紅茶を一口口に付ける。


 


「喉が渇いただろう。ルーク君、君も一口飲んで落ち着くんだ。話はそれからだ。」


「はっ、失礼いたします。」


「さて、あのプーチンチンが第二戦線を構築した訳だが、ルーク君はこの意味を理解出来るかい?」


「はあ・・・無学な自分には全く。ここは他の英国人にはない視点をお持ちの聡明な閣下の私見を拝見したく存じますが。」


「ははは、そうやって君はいつも私を立ててくれるよな。皮肉なのかもしれないがな。」


 


スナック首相は世界地図を広げる。


 


「まずはロシアがワッカナイとネムロを抑える意味から解説していこう。ワッカナイの北にはサハリン、ネムロの東にはクナシリがある。ロシアから見て対岸はニッポン、実質的にヤンキーが支配している。これではそれらの地域の安全が担保されないこと、そしてそれぞれの海峡を仮に機雷で封鎖されるとロシアにとって大打撃となる。間宮海峡は冬季に凍結し、更に狭く軍艦の移動にはあまり適していない。一方でもう一つの出口である対馬海峡にはニッポンとコリアがあり、宗谷海峡以上に守りが固く、更にロシアから離れすぎている。だがワッカナイとネムロを抑えれば話は別だ。両岸は自身の支配領域となり、ロシアは自由に軍艦を太平洋に進出させられる。」


「しかし、それではウクライナ戦線が手薄になりはしませんか? 実際にウクライナ戦線は若干手薄とのことですが。」


「それが二つ目の・・・実際の狙いだ。プーチンチンの目的はヤンキーを交渉の席に引きずり出すことだ。」


「アメリカを交渉の席に・・・ですか?」


「ああ。ニッポンとヤンキーは同盟国だ。少なからず出てくる余地がある。それこそ、長引けば長引くほど参戦への圧力が高まり、参戦せざるを得なくなる。だがそれは同時に核戦争を意味する。ロシアは核戦争を回避したくて仕方ない痴呆爺の心理を突いて動いている。一発ニッポンを大きく殴りつけ、核戦争回避の譲歩を引き出させようとしている。」


「・・・・まさか、その譲歩はウクライナへの支援の停止と自国とベラルーシへの経済制裁解除なのでは?」


「イグザクトリー、その通りだ。どの国が仲介するのかは分からないが、停戦及び核戦争回避と引き換えに譲歩を引き出し終戦する。それが熊の描いている筋書きだ。ここまでは計画通りと言ったところか。」


「では、我が国はどうするので?」


「我が国は当然ニッポンを支援する。限定的ではあるが、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと共に軍を派兵する。諜報部の知らせではホッカイドウ・アオモリの重要拠点に対してロシアが空挺部隊を降下させ、占拠する予定らしい。これがその証だ。」


「こ・・・これは!!」


 


ルークはその内容を見て絶句する。


 


「しかし、アメリカが動かないのであれば我が国は何故動くのですか? 首相は一体何をお考えなのですか?」


「うむ、実はニッポンのミスター・ワカバから提案を受けていたのだ。この戦争が終わった後の世界についてな。」


「ミスター・ワカバ・・・ニッポンの防衛大臣ですか?」


「ああ。あの男は本当に恐ろしい男よ。若いのにも関わらず先を読む力がある。私はこの提案に乗ろうと思う。ここでニッポンに味方することはEUを離脱し、影響力が低下している我が国の復権、更には戦後の新たな秩序を我が国が構築し、更にヤンキーに支配されているニッポン市場への参入、TPP加盟に向けた斡旋、そしてニッポンの持つ高い技術力。それを手に入れることが出来るのだ。既に議会の招集は決まっている。明日には緊急開催される。そこで我らがユニオンジャックを極東の島国に翻すことを議決する!!」


 


翌日英国議会が緊急招集され、ロシアによる日本侵略に対して全会一致で糾弾する決議案を可決。また同時に英国軍の日本派遣を賛成多数で可決し、偶然にもオーストラリアで訓練中だった部隊が日本へ派遣されることになり、カナダ・オーストラリア・ニュージーランドの部隊と共に一路横田基地を目指し空路で向かうこととなった。


 


「・・・・首相、オーストラリアで訓練していたのは偶然ですか?」


「流石にそれは偶然さ。不幸中の幸いって奴だよ。」


 


 


中華人民共和国 中南海


 


「それでプーチンチンは本当にやっちまったアルか?」


 


今や米国と肩を並べる大国となった中華人民共和国。その中国の国家主席を勤める習金平は部下からロシアの稚内・根室侵略の報告を受けていた。


 


「はい。北海道に潜り込ませていたスパイによれば突然ロシアの戦車や覆面の武装集団が現れ日本人を手当たり次第に射殺または女を○○○する為に拉致していたと。またその連絡を最後に連絡がつかなくなっております。」


「ああ、あいつら日本人と中国人の区別がつかなかったアルね。おそらくもうそいつはこの世にいないアル。しかし、北海道は中国が支配するはずだったアル。ロシアに先越されたアル。」


「では、我が国も北海道に。」


「それは無理アル。それに実行する意味もないアル。我が国も動いたら流石にアメリカが重い腰をあげてしまうアル。それは全くよくないアル。ここはウクライナの時のように両者に配慮して中立にいるべきアル。まあ・・・そうアルね・・・台湾海峡周辺で軍事演習ぐらいならしてやるアル。そうすればアメリカもロシアばかり見てはいられないはずアル。それ即ちロシアの助けにはなるアル。」


「では、直ぐにも演習を行わせます。」


「それだけではないアル。中露国境付近にも軍を配置するアル。ありとあらゆる事態に対処出来るようにしないといけないアルよ。」


「了解致しました。では早速にも。」


「それとアメリカには我が同胞を可能な限り送り込むアルよ。何なら日本にいる奴らも行かせるアル。この戦争がどう終わるかは分からないアルが、先に手を打つべきアル。」


 


中国はロシア寄りの姿勢を見せつつも、基本的には中立の姿勢を取った。台湾海峡に軍を展開してアメリカを牽制しつつも、中露国境にも大軍を展開。一体何を考えているのかを各国は探りを入れるのである。


 


「どう転んでも我が国が負けることはないアルよ。むふふふ・・・・」


 


(続く)

取り敢えずこれでハーメルンに追いついたはず・・・タブンネ

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