首相官邸の闘い
日本国 東京都 首相官邸
「У тебя были враги?」
「Я не здесь. Был ли министр обороны Японии, кроме этого?」
日本の政治の中枢である首相官邸。しかし、西田総理の搭乗するヘリコプター撃墜から始まり、謎の覆面の武装集団の襲撃により、今や官邸、いや日本国は政治の中枢としての機能を喪失していた。
「・・・あれは明らかにロシア語・・・やはりヘリを撃墜したのはロシアか。」
官邸の屋根裏に張り巡らされた通気口から下を伺うシルバー。撃墜されたヘリを確認する為に外を飛び出し、他の閣僚や幕僚らとは別行動をしていたシルバーは幸運にも最初の難を逃れていた。それと同時に覆面の武装集団の最後のターゲットとなっていたのである。
「仮に俺を殺したとしても、当の大臣は存命なんだがな。」
ロシアの致命的なミス、それは若葉防衛相が不在であることを全く把握出来ていなかったことである。
「どうやら、作戦を立案した奴はそれなりには頭が切れるみたいだな。まさか東京で総理が爆殺されるなんて誰も想定してないだろうからな。」
独り言をつぶやきながら下を伺うシルバー。
「・・・・俺も死を覚悟しないとな。」
シルバーは懐からスマートフォンを取り出すと響宛にメールを送信する。
「・・・・さて、あとは侵略者共を一人でも多く道連れにしてやるとするか。」
響へ
桜咲く
散り行く姿
常磐の美
常磐銀地
日本国 千葉県 習志野市 陸上自衛隊習志野駐屯地
「総員集合!!」
特殊作戦群長の号令を受け、出動待機をしていた隊員30名が規律よく整列する。
「敬礼!!」
群長は招集した隊員達を前に防衛相からの指示を伝える。
「防衛省より連絡があり、首相官邸に着陸寸前の総理が搭乗したヘリが撃墜され、時間差で覆面の武装集団、否ロシア軍による襲撃を受けた! 更に都内の地下鉄にサリンがばらまかれ、都内は大混乱となっている!! 官邸内の要人の生死は絶望的であるが、これを排除しなければ日本国は完全に崩壊し、我々も明日はないだろう!! 聡明な若葉響防衛相は決断された。我々特殊作戦群の精鋭にロシア軍の排除をセヨと!!」
一呼吸おいて更に続ける。
「また若葉大臣はこれは訓練ではなく戦争である。如何に自衛官と言えど、愛すべき家族のいる、帰るところのある一人の人間である。決して死ねとは言えない。ロシア軍がどのような罠を仕掛けているか判断出来ない。死地に送るような命令を強要出来ないと。特殊作戦群長より命ずる!! 己の使命を全うし、仮に死することとなっても良い!! その覚悟のある者は前に出よ!! なき者は右手を上げよ!!」
次の瞬間、30名の隊員全員が一寸も乱れることなく前に大きく一歩歩み出た。
「群長、我々は日本国民の生命と財産を守る自衛官であります!! 入隊した時より、死ぬ覚悟は出来ております!!」
「相手が例え米軍であったとしても、我々はこれを排除する実力と覚悟を持っております!!」
「若葉大臣にお伝えください。気遣い感謝致すと!」
「既に亡くなった同胞の敵を討たせてください!! 直ぐにも出動命令を!!」
隊員は口々に出動を懇願する。彼らは自衛官の中でもエリート中のエリート。他の自衛官とは覚悟と士気が全く違う。
「では命じよう。速やかに官邸に向かい、敵を排除せよ!!」
彼らはヘリコプターに乗り込むと一斉に飛び立っていった。また、これに先立つ形で百里基地よりF15J戦闘機二機が離陸。官邸上空を飛び回り、対空火器の有無を確認していた。
日本国 市ヶ谷 防衛省
「・・・・・おそらくヘリを撃墜したのは歩兵用の対空火器か。」
偵察を行った戦闘機からの画像を確認する若葉大臣。
「常時首都上空に戦闘機を展開させる。もしかするとロシアが爆撃機を飛ばしてくるやもしれん。」
矢継ぎ早に指示を出す若葉大臣であるが、正直都内のことで手一杯であった。
(こんなことをしている間にもロシアは稚内と根室の実効支配を進めている。出来ることなら直ぐにでも奪還の指示を出したいところだが、まずは足元の敵を排除しないことには何も出来ない。それこそ、この防衛省に直接攻撃してくる可能性も否定できない。それと西田総理が死亡した以上、臨時内閣を発足させなくてはならない。それに僕は本来総理の代行役には選ばれていない。選ばれていた大臣が皆官邸で消息不明であるからこそ指示を出しているが、法的には色々とアウトだ。野党やマスコミ、市民団体や工作員共が騒ぎまくるだろう。何なら今まさに騒ぎまわっているかもしれない。一刻も早く都内を安定させなくては・・・)
日本国 東京都 首相官邸
「Этот выглядит как золото! !」
残された最後のターゲットを探し回っているロシア兵は広い官邸を縦横無尽に走り回っており、また統率が取れていないのか、中には官邸内の金になりそうなものを物色している者までいる始末であった。
「どこまで行ってもロシア人は野蛮な蛮族だな!! ウクライナでやったことをそのままやりやがって!!」
「!?」
物色に夢中になり、完全に背後への警戒を怠っていたロシア兵は人影に気付き振り向くも、
「!!」
声を出す暇もなく眉間を拳銃でシルバーに撃ち抜かれ絶命する。銃声が木霊したものの、各地で手当たり次第に破壊している為か、金目のものを物色しているか、あるいは広い官邸に対して突入した兵士が少なすぎるのか、反撃にやってくるロシア兵は皆無であった。
「お前の装備品、ありがたく使わせてもらうぜ。」
シルバーはそう言うとスーツを脱ぎ捨て、倒したロシア兵の武装を根こそぎはぎ取る。その後裸になったロシア兵に先程まで来ていたスーツを丁寧に着せて差し上げ、あたかも要人か何かが死んだかのように装ったのである。
「腐っても俺は元自衛官だ。そこら辺の大臣連中とは違う。残念だったな。」
そう言うとシルバーは武装を確認し、部屋から飛び出す。
「!! 響からか? どれどれ・・・そうか。何とかなりそうだな。」
そう言うとシルバーはスマホを懐にしまい、敵を探す。
シルバーへ
シルバー
仲間が今
習志野から
行くから死ぬことは
出来ないはずだよ
響
「官邸に突入します!!」
官邸屋上のヘリポートより特殊作戦群の隊員が降り立つ。反撃を予想し、事前に戦闘機による機銃掃射などが行われていた為穴だらけであったが、何の抵抗を受けることなく隊員達は官邸へ突入することとなった。
「突撃!! 突撃!!」
隊長の号令により隊員が一斉にドアを破壊し官邸へ突入する。
「!?」
突然の敵襲に慌てたロシア兵はまともに撃ち返すことが出来ないままその場で射殺される。
「クリア!! クリア!!」
「敵兵三名確認!!」
「フラッシュバンを使う。その後拘束しろ!!」
固まって物色していたロシア兵はどうやって本国へ持ち帰るかにふけっており、完全に慢心していた。そこに特殊作戦群のフラッシュバンをまともに食らってしまう。
「Что! ?」
手際よく無言で特殊作戦群はロシア兵三名を拘束。その後同様に各地を回り、敵兵を射殺していく。そして武装して抵抗していた唯一の生き残り常磐銀地副大臣を保護し、官邸内の敵の排除に成功するのであった。
「Пожалуйста, помогите мне! ! "Это чудовище!" ! "Ну, я все еще не хочу умирать!" !」
運よく命からがら官邸から脱出に成功したロシア兵が一名だけいたが、既に官邸の周辺は自衛隊と警察により包囲されており、ロシア大使館に逃げ帰る前に警察に見つかり、拳銃を向けられると両手を上げ降伏した。どうも、銃弾を討ち尽くしてしまい、更に同胞が無言で撃ち殺されていくのを目の当たりにし、脱糞してしまってもいたという。その後警察と合同で立ち入り調査が行われ、敵勢力の排除を確認。またサリンの除染も進められ、都内の混乱も少しづつ安定へ向かっていた。
(続く)




