変わる世界とその後
202X年 10月10日 日本国 宮城県仙台市 臨時衆議院(宮城県議会議場流用)
「先に英国で調印しました、ユニオン条約は我が国の安全保障強化に繋がるだけでなく、先のロシアとの戦争で露呈した日米安保の脆弱性と崩壊した日米関係の改善の為に必要不可欠なものです。限定的な集団的自衛権の行使を更に進め、普通の国となり、我が国と同盟国の国民を守り、平和と安定、法の支配による国際平和に貢献するべく、先の大戦で戦火を交えた英国と再び手を携えることを決意したのです!!」
東京がロシアによる核攻撃を受けた影響で宮城県議会を衆議院、仙台市議会を参議院の臨時議場として運用していた。そして松葉首相は議会に対してユニオン条約の批准を求めていた。世論では先のロシアによる北海道・青森・東京等への軍事攻撃、防衛省で核の炎に焼かれるまで指揮を執り続けた若葉前総理への評価から自由国民党への支持率が向上しており、ユニオン条約の批准や集団的自衛権の全面行使容認、更に核武装への賛成がいずれも60%を超えており、左派系のトンキン新聞でさえ60.1%を記録する等、松葉政権に追風が吹いていた。しかし、国会はそんな国民の声を聞くつもりなどどこにもなかった。
立憲国民党 原口一裕
「先のロシアとの戦争で改めて我が国は平和が大事であると実感したはずです。実際多数の国民の本当の声は政府の進める軍事力強化路線に大反対しています!! そのような政策を取るのは一重にイギリスやイスラエルと言った死の商人にそそのかされているからであり、国民を守るとか、国際貢献などと言った理由はとってつけただけの詭弁であり、復興に充てるべき税金を生産性のない軍事費に注ぐという行為は断じてあり得ません!! 更に安倍川内閣で行われた放送法への解釈変更により、真の国民の声が聞こえなくなっています!! 各報道機関では自国民党へ肯定的な意見ばかりですが、現実は違います!! 都合の良いことを書かなければ圧力をかけているから肯定しているかのように見えているのです!!」
日本コミンテルン 穀田恵次
「総理が進めるべき政策、そして国民が真に求めている政策はなんといっても非武装中立であす!! そもそも自衛隊などという、暴力装置があるからこそ、ロシアの怒りを買い、戦争になってしまったのです!! 総理!! 今こそ非武装中立、憲法9条を生かした平和外交に舵をきるべきではないでしょうか!!」
この他左派政党が一斉に政府与党に対して反発。更に中国に配慮したい公正党が自主投票に回るなど、国会は荒れていた。一方で浪速維新の会と国民党は賛成に回り、それに加え両党が合同で憲法改正の草案を提出。各党の思惑が入り交じり、採決が行われることになる。
公正党控室
「・・・・・いよいよ俺も腹を決める時が来たな。」
松葉内閣で国交大臣を勤めている黄金勇気は自身に従う意思を示した公正党議員を控室に集めていた。中国の機嫌を損ないたくない山口代表以下左派系の執行部と若葉前総理の盟友であり、右派系の黄金国交相や左派系から離反した議員による内部抗争が公正党内で起こっていた。
「響、お前の想い、俺は受け取ったぜ。・・・・行くぞ!!」
ユニオン条約採決の前日に黄金大臣以下公正党の一部議員が離党。そのまま自国民党に対して入党届を提出する事態が発生。それを受け自国民党執行部はこれを快く受理。先の東京への核攻撃で左派系議員の幹部が炎上する議員会館に呑まれて蒸発していたこともあり、止める者は存在していなかった。和歌山には左派系のドンがいたが、彼は総理に恩を売ることで自身の権益を認めさせるなどしたたかであったという。山口代表以下執行部は抗議したものの、松葉総理はこれを一蹴。そのまま連立解除と選挙への協力の終了を通告。これに呼応するように公正党が持っていた関西の6つの選挙区に擁立予定候補者を発表。これらの選挙区に離反した公正党議員がいなかったこともあり、このまま選挙をすれば自国民党の協力が受けられない公正党は議席喪失が確実な情勢となった。
自国民党総裁室
「今や宗教政党に頼る必要はなくなった。響君もこの結果に満足しているはずだ。」
「しかし総裁、条約は問題なく批准出来るかと思いますが、憲法改正事態は必要でしょう。」
「幹事長、そんなこともあろうかと既に草案を作っておいたんだ。と言っても、響君が書き残したメモにかなり近いけどね。」
「・・・・・成程。しかし、このまま成立とはならないかと。」
「だからこそ、内容の修正や維新や国民への根回し、そして・・・・。」
「・・・・・そういうことでしたか。私も腹をくくらなくてはなりませんなあ。」
その後、ユニオン条約は自国民党、浪速維新の会、国民党の賛成多数で衆参共に可決。またそれに加えて松葉内閣は東京の復興の政策を発表。核攻撃を受けた東京神奈川埼玉千葉の一部を各都道府県から切り離した上で日本政府直轄の経済特区東京(正式名称ヒビキワカバ特別区)を設立する経済特区東京法案を発表。世界各国からの投資を呼び込むだけでなく、経済特区東京を正式な日本の首都とし、大阪・仙台を副首都とする首都副首都法案も併せて公表した。企業にかかる税金が他の府県より安く設定される経済特区東京には米英やユダヤ人により多額のマネーが流れ込み、勤勉な日本人と合わせて急速な経済復興が進められることになる。またこれを受け経済界では日米台韓の半導体メーカーが合同で次世代の半導体の研究開発生産を行う拠点を設置することで合意。日本政府や米国政府がこれを全面的にバックアップし、西側の結束と技術力の強化が図られることになる。
「さて、行くとしようか。」
翌年の1月11日、任期も迫りつつあった衆議院を松葉内閣は解散。この頃には自国民、浪速維新、国民の三党は憲法改正の草案を取りまとめており、各党共通の政策として打ち出すことで合意。右派と左派の全面的なぶつかり合いとなった選挙戦は各地で左派政党の候補者が次々に落選。特に大阪と兵庫では公正党は全ての議席を失い完全に国政における力を失った。これにより抵抗勢力を排除した松葉内閣は若葉内閣がやり残した政策を次々に実行。戦後初の憲法改正発議、経済特区法・首都副首都法・スパイ防止法を次々に成立。この後松葉内閣は中国やロシア国内でくすぶるクーデターの機運等外部の脅威、北海道や青森の復興にむけた政策の策定などに追われることになる。
一方でユニオンは米国の加盟を受け、NATO加盟国の大半が次々に加盟を申請。トルコ、ギリシャ、ハンガリーは申請しなかったがそれ以外の加盟国がユニオンに加盟を申請。またドイツ・イタリアを新たな核保有国とすることをG7首脳は秘密裏に確約。もしロシアで政変が起き、再びウクライナや日本へ軍事侵攻する構えを見せた場合に発動することになった。またNATO加盟国以外ではなんとアイルランドが加盟を申請。どことも同盟を結んでいない同国は仮に他国に侵攻されてもウクライナのように見捨てられる可能性があった。英国嫌いというイデオロギーが現実の脅威に勝ったのである。
ウクライナではG7とイスラエルの仲介で講和会議がイスラエルのエルサレムで開催。ウクライナはクリミア軍港をロシアに租借する代わりにロシア軍の全面撤退及び各地の自称国家を承認しないこと、ロシアが勝手に架けたクリミア大橋の通行税はウクライナが徴税出来ること、そしてウクライナ国内にあるロシアの資産は全額没収などを認めたエルサレム条約に批准。またこの条約にはウクライナの武装中立が認められるだけでなく、再びロシアがウクライナに侵攻した場合にはウクライナはユニオンに自動的に加盟し、全加盟国への攻撃とみなすとも定められた。こうして暫くの間、ウクライナには平和な時間が流れることになる。そう、暫くは。
203X年 9月5日 ロシア連邦 モスクワ クレムリン
「我が国は立った今を以て、日英やウクライナと結んだ講和条約の破棄を通告する!!」
西側との融和を進めていたパトソール臨時大統領であったが、ショイゲ国防相と会談中に机の中に仕掛けられていた爆弾が爆発。政権の幹部が爆殺され、混乱に乗じてメドベージェブが政権を掌握。融和政策に不満を抱いていたロシア国民の心を掴み、西側との対決を宣言。一方の西側ではフランスで革命が発生。年金改革に端を発した民衆の動乱はロシアや中国による工作活動により武装したフランス国民が警察や軍に向けて発砲。一部の警察や軍が民衆側に離反。事前に援軍を要請していたドイツが欧州議会のあるストラスブールにポーランドやベネルクス三国、チェコを指揮下に加えた上で到着したという知らせを受けマカロン政権はパリを脱出。パリに設立されたフランス国民政権とストラスブールに設立されたマカロン政権という二つの政府が存在する分断国家となった。更にユニオン加盟国ではない台湾では中国が頻繁に周辺で軍事演習を実施。これを監視しているユニオン軍と小競り合いを起こすこともしばしばあった。そんな中、人民解放軍の末端が誤って沖縄周辺に派遣されていたユニオン極東方面軍所属のカナダのコルベット艦を攻撃。中国政府が即座に謝罪したことで事なきを得たものの、第三次世界大戦の引き金となりかねない事態であった。こうして世界は常にどこかで第三次世界大戦の火薬庫が存在することになり、殆どの国が何らかの陣営に加盟し、常に戦争とならないように絶妙なパワーバランスの元で世界が成り立つことになるである。
(完)




