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崩壊の帝国  作者: 東海鯰少佐
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停戦と新たな秩序

8月10日 福島県沖 元在日米軍原子力空母「ロナルド・レーガン」艦橋


 


「それは本当か?」


「間違いありません。ヨコスカの司令部からトウキョウは壊滅。周辺の都市も甚大な被害を受け、ミスター・ワカバは炎の中に散ったと。」


「それで、その後はどうなったのか。報復したのか?」


「はい。マツシマに移動していたミスター・マツバが核による報復を指示。それに伴いモスクワとサンクトペテルブルクは灰燼に帰したと。」


「・・・・そうか。これも核戦争を回避しようと考えるあまりにジャパンを見捨てたホワイトハウスの失態であるな。まあ、ホワイトハウスの連中なら報復すら出来なかっただろうが。」


「司令、我々はこれからどうするべきなのでしょうか?」


「直に指示が来るだろう。それまでは北に進路を向ければよい。」


 


その後、北海道へ向け北上中であった日米艦隊に対し、松島より戦闘停止と大湊への入港の指示が出されることになった。


 


「そうか。では、停戦ということだな。」


「しかし、合衆国は我々を許しましょうか? 脱走兵と化した我々の事を。」


「そんなことはジャパンの政府とペンタゴンに任せておけばよい。気にすることはないさ。」


 


 


同時刻 北海道古宇郡泊村 北海道電力泊発電所


 


「同志、それは真かね?」


「はっ! 間違いありません!! またそれに加え、本国より直ちに武装解除し、日英軍に投降せよとも!!」


「・・・・そうか。同志、終わったのだな。この無意味な戦争がな。」


 


泊発電所を占領する部隊の司令官は麾下の部隊に本国からの指示を伝え、二時間後に包囲を開始した日英米の部隊に投降した。徹底抗戦を主張する一部の過激派が制御室に立て籠もり戦闘を継続したものの、殆どの兵は戦争から解放された事、また帰国までの衣食住を保証する事に満足しており、抵抗を続けた兵は僅かなものであった。


 


「ウラディミール・プーチンチン、バンザーイ!!」


 


そして程なくして抵抗していた最後の兵がカナダ軍の兵士に銃殺され、泊発電所は再び日本の統治下に戻ることになり、速やかに点検作業が連合軍の護衛の元で行われることになった。また投降した兵士はその日のうちに輸送機で百里基地に移送。その後医師による診断を受けた後に日本政府が借り受けたホテルに収容され、その清潔ぶりや本国にはないトイレの機能に驚いたという。また全ての兵士にカツ丼が用意され、久々の温かな食事に痛く感動したという。


 


 


8月15日 中華人民共和国 旧満州 哈爾浜


 


「では、調印に移りましょう。」


 


日本、英国、カナダ、、オーストラリア、ニュージーランド、ロシアの全権大使は中国の哈爾浜に集まり停戦協定に調印した。日本からはイスラエルに派遣中の若葉栗栖外務相が全権大使として参加し、その他の国は駐スイス大使が参加した。


 


「・・・・これで終わる・・・のよね。」


 


この日結ばれた停戦協定では両国軍による全ての戦闘停止と8月中にロシア軍は北海道からの全面撤退、それを日本側は一切妨害しないこと、9月以降にも居座っている兵がいた場合は脱走兵としてみなすこと、並行して講和条約を締結することが定められた。また講和会議は仲介を申し出た永世中立国スイスで行うことでも合意。また日露双方の捕虜も速やかに帰国させることになったが、日本側の捕虜の中にロシアに帰国したくないと抵抗する者がいて少し問題になったともいう。


 


 


9月2日 スイス ジュネーブ


 


「この条約を以て、日露両国の講和とし、また並行して両国の領土問題を完全かつ、不可逆的に解決したことに合意することになった、パトソール臨時大統領よろしいですか?」


「無論です、松葉臨時首相殿。このジュネーブ講和条約並びに平和友好条約により両国の関係を正常化することに合意、またウクライナからの完全な撤兵も行うことを約束いたします。」


 


この日、停戦協定以降進められていた日露での講和会議が妥結。戦争状態の解消を定めた「ジュネーブ講和条約」が締結。ロシアは稚内人民共和国、根室人民共和国の独立承認を完全に取り消すと共に日本側に凍結されているロシアの資産及び千島列島、樺太を賠償として日本側に、英国やカナダなど共同参戦国には凍結中の資産の80%を賠償として引き渡すこと、更にシベリア等極東地域開発において日英を優遇すること、そしてウクライナからの完全撤兵とそれに伴う交渉の仲介を日英が行うことを約束するというかなりロシア側には厳しい内容となっていた。しかし核攻撃により首都が灰燼に帰したロシアにとって、一刻も早い国家の立て直しが急務であり、また本国から離れすぎた地域の保持は困難であったこと、また中国が沖縄方面に向けていた部隊を中露国境付近に移動させつつあり、日英と講和することで中国に対する牽制としたいということ、そして何よりウクライナや日本で装備品を多数失った事から引き渡す地域の部隊や装備品を本国に戻し、戦力の集中をしたという事情があった。


そしてもう一つの条約は「日露平和友好条約」である。長らく平和友好条約が米国の妨害によって締結されていなかった両国にとって締結は悲願でもあった。しかし、日米安保を発動しないという米国の影響力低下と日本による在日米軍の核兵器使用もあって干渉を受けることがなくなり、条約の締結に至った。内容としては北方領土は日本古来の領土であることを認め、千島列島及び樺太は日本領であることを完全かつ不可逆的にロシアは認めるというものだった。これにより日本はロシアに不法占拠されていた北方領土を取り返すだけでなく、サンフランシスコ平和条約により領有権を放棄していた地域をロシアから譲り受ける形で再取得することになった。またこれらの地域には米軍基地を設置しないことも併せて明記。これに米国は抗議したものの、檜扇駐米日本大使から、


 


「黙れ。悔しかったら日米安保発動してから言えクソが。」


 


と一蹴されただけでなく、それだけ言って大使は去ってしまい抗議に来た米国側は黙るしかなかったという。


 


 


9月5日 英国 クライド海軍基地


 


「では、正式に調印とします。響君が生前進めて来た政策が実現することとなり、日英の関係が強化されることを誠に嬉しく思います。」


「ミスター・マツバ、それは此方も同じです。自由と民主主義を重んじる海洋国家が再び手を携えることに大きな意味があります。そしてこのことはアメリカを動かすことになるでしょう。」


 


日露の講和条約締結後に英国へ移動した松葉臨時首相は英国のリシ・スナック首相と会談し、同じく英国を訪れていたカナダ、オーストラリア、ニュージーランドの首相とも首脳会談を実施。その後到着したフィンランド、スウェーデン、イスラエルの首脳とも会談。その後8か国は「ユニオン条約」を締結した。この条約は北大西洋条約に習った軍事同盟に関する条約であり、それに伴い発足する組織の名前を英国の提案により、「自由と民主主義の連合」、通称「ユニオン」とするとも定められた。。基本的な内容は北大西洋条約とは変わらないが、活動範囲の制限がこれまでのNATOでは北回帰線より北側とされていたものが撤廃され、地球全体の加盟国の領土が防衛対象となった。また日本側の要望により、ユニオン条約第九条には


 


ユニオン条約第九条


「全締約国は、締約国の兵士及び軍属並びにこれに付随する者が締約国の国内で犯罪を犯した場合、引き渡しを求めることが出来、原則引き渡しを拒むことは出来ないことに合意する」


 


と定められた。これは日米地位協定により米軍兵士が犯した犯罪を日本側が裁けないという不平等条約を事前に是正しておきたいという日本側の想いであった。また同時に8か国は共同で声明を発表、米国に対してユニオン参加を呼びかけ、更にオーストラリアへの原子力潜水艦配備計画を改良し、日本を加えた上で日本とオーストラリアを英国の支援の下で核武装させることを併せて提唱した。また日本とオーストラリアが核武装するまでの間の防衛策として英国は3隻の原子力潜水艦を日本に配備し、代わりに日本側は護衛艦4隻と補給艦1隻を英国に配備。それぞれをそれぞれの指揮下に加えることに合意した。これまでの米国頼りの防衛政策からの大転換であり、全世界が日英に注目する中、米国は決断を迫られることになるのである。


 


 


日本へ帰国中の政府専用機の機内


 


「松葉総理、上手く行きましたね。」


「ああ、栗栖かい? 君もお疲れ様だね。この日まで響君にかなり働かされて大変だったんじゃない?」


「なんの、可愛い弟の願いですから。まあ、もうこの世にはいないのですけど。」


「・・・・そうだね。」


「それより、米国はどう動くでしょうか?」


「それは分からないね。僕は響君じゃないから米国を完全に敵に回すこと何かしたくない。ある程度は米国の要求は飲むつもりでいるよ。」


「しかし、イスラエルが参加したことで流れは此方にあるのではないですか?」


「そうだね。イスラエルは米国のパトロン。既にユダヤ人コミュニティが働きかけを行っているというし、駐米大使も工作活動に勤しんでるみたいだね。」


「米国が日本を見捨てる動きをしてしまったことでイスラエルは次は我が身と戦々恐々でしょうから、必死に働きかけを行うでしょうね。故にユニオンに参加するだけでなく、米国のユニオン加盟を全力で提唱。我が弟なら米国の加盟を認めなかったでしょうけど、これを認めるのが松葉さんらしくて良いですわね。どうなることか。」


「まあ、決めるのはホワイトハウスさ。僕らじゃない。」


 


帰国中の政府専用機ではその後英国に避難していた若葉前総理の妻、若葉琴音と会談し、彼の思い出話に花を咲かせるとともに、彼の葬儀について話し合った。そして各国に散っていた大臣達も国内に呼び戻し、日本の復興へ邁進することになるのである。


 


(続く)

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