北海道降下作戦
日本国 北海道 札幌市東区丘珠町 札幌飛行場
「被害状況知らせ!!」
「滑走路、装備に被害なし!! されど外部からの電源供給が途絶し停電しました!!」
「予備電源に切り替えろ!!」
「司令!! 周辺の民間人が保護を求めて押し寄せてきています!!」
「見捨てることは出来ん!! 入れてやれ!! だが建物の外には絶対に出すなよ!! いつこの飛行場がロシアに狙われるか分かったもんじゃない!!」
ロシア軍によるミサイル攻撃は北海道の防空を担う千歳基地には苛烈な程行われた一方でそこより北側にある札幌飛行場へは全くと言っていい程行われることはなかった。
「千歳がやられたか・・・これでは空からの支援は期待出来んな。もしここで奴らが来れば我々は玉砕してしまうだろう・・・」
しかし、その悪夢は現実となる。稚内空港を出撃したロシア軍の戦闘機と輸送機が札幌飛行場へ迫って来ていた。
「第七飛行隊のUH-1Jよりロシア軍と思わしき航空機を多数視認と報告! しかしそれを最後に通信が途絶えました!!」
「間違いなく撃墜されたな。全ての戦闘員に武器を配れ。会計隊にもだ。全員一回ぐらいは射撃訓練はしているだろう。それと援軍の戦車隊には機会を見て敵空挺部隊に攻撃を加える様に指示を出せ!! 我々の死場はここぞ!!」
「はっ!! されど民間人はどうしますか!?」
「・・・・やむを得んが見捨てるしかない。専守防衛にこだわった時点で犠牲になる運命にあったのだ、そう割り切るしかない。」
「・・・・司令・・・。」
「さあ、我々も行くぞ。ここは我々の死場であるからな!!」
丘珠駐屯地の隊員達は武器を手に取り、戦闘態勢を整える。援軍として派遣されていた普段は北恵庭駐屯地に駐屯する、陸上自衛隊第7師団隷下の機甲科部隊第72戦車連隊の5台の90式戦車はエンジンを唸らせ、闘いの時を待った。そして遂にロシア軍の空挺軍が滑走路へ降下し始めた。
「撃て撃て撃て!! 弾は使い切って構わん!!」
空挺降下するロシア軍の空挺軍に対し丘珠駐屯地の隊員が一斉に発砲。ロシア軍は戦闘機による護衛こそ伴っていたが、札幌占領の拠点にしたいとの思惑があり滑走路や空港ターミナルへの攻撃を行わなかった。それが結果として無傷で戦闘員や装備を残すこととなってしまい、第一波の降下部隊に大損害が発生。これに気付いたロシア軍の戦闘機部隊は支援の為に地上への機銃掃射を開始。駐機場で多数のヘリを撃破し、一部の戦闘機が携行していた爆弾を投下。滑走路や空港ターミナルに直撃し、自衛隊員や避難していた多数の民間人が犠牲となった。
「降下降下降下!!」
第二派の降下部隊が札幌飛行場へ空挺降下。日本側の抵抗は収まった。そう思ったロシア軍であったが、これまで姿を隠していた第72戦車連隊が突如として空挺部隊の眼の前に出現。戦車砲や機関銃を乱射し、並みいるロシア兵を轢き倒しロシア兵を恐怖の渦中に叩き落とした。肝心の戦闘機部隊は先の機銃掃射で弾薬を使い果たしており、戦車撃破を実施出来なかった。更に周辺の駐屯地から部隊が出撃・集結しつつあること、本州から空中給油を受けた日本側の戦闘機が急速接近中であるという情報が入ったことでロシア側は札幌飛行場占領を断念。追加の物資を投下予定であったロシア本国の輸送機部隊は転進。また空挺軍を輸送した攻撃隊も稚内へ撤退を開始。見放される形となったロシア兵は日本側の戦車や生き残りの隊員、更に闘うことを選択した一部の札幌市民や外国人観光客の攻撃を受け数を減らし、本州から飛来した15が空を舞い始めた頃には全て降伏するか、銃殺されるかの道を選ぶことになった。日本側は多数の自衛官や民間人の犠牲を払い、札幌占領を阻止。しかし、一方では・・・・
日本国 北海道 古宇郡泊村 北海道電力泊発電所
「戦争だって?! ふざけんじゃねえぞ!!」
「しかもうちの火力をやったらしいじゃねえか!! お陰様でこっちもブラックアウトだ!!」
「そんな無駄口叩いてる暇があれば急いで点検しろ!! こいつらがメルトダウンしたらそれこそ日本が終わるぞ!!」
ロシアによる北海道・青森・京都へのミサイル攻撃。民間インフラへも攻撃を行ったロシアは北海道全体を停電させることに成功。停電の影響は北海道電力の所有する原子力発電所である泊発電所にも及んでいた。
「ところで何か変な音がしねえか?」
「ヘリか? それもかなり近い。」
突然の接近するヘリの音に作業員たちは手を止めて音のする方角へ目を向ける。
「に、逃げろ! あれはロシア軍のヘリだぞ!!」
軍事に興味のある作業員の発言により作業員達が一斉に逃げ出し始める。そこへ上空の武装ヘリから機銃掃射の雨が浴びせられる。
「ぎゃあ!!」
「し、死にたく・・・!!」
「ぐふっ!!」
地上の脅威を排除したと判断したロシア軍は一気に空挺降下を実施。自衛隊の注意が札幌飛行場へと向けられていたこともあり、散発的に作業員や警備員が抵抗したものの、ロシア軍の空挺軍は何なく排除し泊発電所を占拠。札幌飛行場方面から転身した輸送機部隊が物資を投下し守備隊を増強。翌日には同行させていたロシアのメディアによって日本のネオナチ化の証拠を発見したとして原発施設の画像を全世界に放映し、また所長ら民間人をアイヌ民族に対する非人道的行為に加担したとしてロシア本国へと強制連行する様まで見せつけ、野蛮国家ぶりを世界に示すことになった。
日本国 東京都 市ヶ谷 防衛省
「・・・・・これは不味いな。」
「原発施設の占拠。これは明らかに我々への牽制。介入すれば北海道を汚染するぞ。そして日本へは降伏しないなら汚染するぞ、と。」
「・・・・・大使からは?」
「アメリカ政府は話し合いでの解決を希求している。我が国はその用意がある、と。」
「そうか。では予定通り例の策を実行に移す。」
「ああ。今すぐに。」
ロシアによる原発施設の占領、日米安保条約の不適用を通告した米国。若葉総理は遂にあることを決断することになった。その後、横田や横須賀、岩国や沖縄等日本全国の米軍基地で若葉総理のビデオメッセージが放映された。
「我が国日本はロシアからの不当な侵略行為を受け、非常に大きな被害を受けている。北海道や青森を始め四の都道府県で軍民問わず多数の人々が侵略者の犠牲となり、その中には在日米軍の兵士や家族も含まれている。自由と民主主義を愛し、大切にし、共通の価値観を持っているにも関わらず君達の本国は卑怯にも同盟国を、トモダチを見捨てる決断をした。これは同時に君達の同胞や家族が、更には君達自身が死んでも本国は一切助けない、見捨てる決断をしたということだ。プーチンチンは腐った政治家であるが、バイデンデンも同じく腐った政治家であった。そんな腐った政治家に従うか、それとも良心に従いトモダチを助けるか。君達は迷うことなく後者を選んでくれた。後者を選べば本国には二度と帰ることは出来ず、更に家族や友人とも離れ離れになることを承知で選んでくれた。響、心より礼を申す。無論、中には従いたくない者もいるだろう。そのような者に対して僕は戦場に行けとは命令できない。本国への帰還を望む者は参加しなくていい。それを咎めることは一切しないことを約束する。」
暫しの沈黙が流れる。横田基地ではその間に離脱する兵士は誰一人としていなかった。彼らは同盟国を見捨てた本国を見捨てたのだ。
「では、改めてここに宣言させて頂く。在日米軍を義勇軍として日本国内閣総理大臣、若葉響の指揮下に加えることをここに宣言する!! 日章旗と星条旗を北海道に掲げ、侵略者を一人残らず日本海に叩きだすのだ!! 日本と合衆国に栄光あれ!!」
演説が終わると各地の米軍基地ではボルテージが一斉に上がって行った。演習と称して太平洋に展開していた第七艦隊は独立第七艦隊と改称し北上を開始。岩国では海兵隊のF35Bが海上自衛隊の護衛艦「かが」に要員と共に乗艦と搭載を開始。沖縄にローテーション配備されていたF22が一斉に北へ向かい、原子力潜水艦が台湾海峡を航行。更に泊原発を奪還するべく日英米による奪還作戦の立案に移り、それに合わせ各地の部隊が移動を開始。駐日米大使からの報告で事の事実を知った米国大統領はこれに激怒。ペンタゴンに対して日本へのあらゆるデータリンクを途絶させるように命令。しかしペンタゴンは下手に切ろうとすれば本国にも大きな影響が出るとして拒否。更にCIAから軍がクーデターを行おうとしていると知らせが入り、バイデンデン政権は内部にも敵を抱える事態に。政権内は日本と共にロシアを叩くべきとする国務長官や国防長官を首班とするペンタゴン派と譲歩してでも核戦争を回避するべきだという大統領や副大統領、CIAによるホワイトハウス派に分裂。米国は内戦の危機が迫っていた。
「分裂するなら勝手にすればいい。味方する方を正式な米国政府として承認するだけの話だ。」
「響・・・お前。」
闇堕ちした響をシルバーはただ見ることしか出来なかった。正確には何を言えば良いのか分からなかったと後に彼は語ることになる。
(続く)




