欠席の総理と防衛相
8/8 日本国 市ヶ谷 防衛省
「今頃国会は荒れてるんだろうなあ。」
防衛省の作戦会議室で防衛相の常磐銀地に機能不全の国会を揶揄する若葉総理。
「お前が半ば荒らしたんだろうが。」
「まあね。僕達への不信任だ問責に対して本人たちが出席しないんだからね。そんなことより作戦会議が重要だよ。」
「国会の議決を待たずに出動させる気か?」
「当然だよ。あんなどうしようもない奴らと遊んでる時間がもったいないよ。・・・まあ身内にもいるけどさ。最悪事後承認で強行採決だよ。そもそも国家の危機に政争するような連中を国民は支持するのかな?」
「・・・ヒビキ、お前の考えるゴールはどこにある?」
「ゴール? そうだね・・・アメリカをぶっ壊す、かな?」
「それは御恐れたことを言うな。」
「シルバー、君は平家物語を少しは勉強したよね。」
「国語の授業であったな。だがそれがどうした?」
「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。
おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。」
「暗記させられたなあ。あまり好きではなかったがな。」
「そうなんだ。まあいい。「諸行無常」は仏教の教えの一つ。「諸行」=全ての物事、この世にある全てのもの、それは「無常」である。「無常」は字のとおり、常ではない。固定したものではない。変化する。この世の全ての物事は変化している。人は年老いていくし、物質も古くなる。宇宙も膨張を続けている。全てのものは変化している。それが真理だ。おごり高ぶっている人も長くは続かない。春の夜の夢のようだ。春の夜は短い。冬は夜が長かったが、春になると昼が長くなり、夜が短くなる。だから春の夜の夢はすぐに覚めてしまう。はかないものの象徴なのだ。猛々しく力を持った者も最後は滅んでしまう。風の前のチリのようなものだ。一吹きで吹き飛んでしまう、はかないものだ。僕はアメリカという世界最強の覇権国家と平家は似ているんじゃないかなと思う。平清盛の元で栄華を誇った平家であってもはかなく滅びてしまった。更にかつて世界の海を支配した大英帝国も今となっては植民地を失っている。社会主義国家の中心だったソ連も崩壊した。太平洋を席巻した大日本帝国も今や牙を抜かれた狼。たけき者はいずれ滅びる。それが世界の真理だ。」
「つまり、次滅びるのはアメリカの番だって言いたいのか?」
「ああ。それも、回避出来るのに自ら滅びの道へと進んでしまっている。核戦争を回避したい。自国民が無事ならいい。例え同盟国であっても見捨てる。それが意味するのはアメリカは約束を守らない。信用出来ない国という事実だけが残る。今のアメリカの覇権は同盟国との絆と従属によって成り立っている。」
響は腕時計を見つめる。
「説法はここまでだシルバー。もうすぐ各自衛隊の幹部が集まる。席に着いて。」
「へいへい。」
その後陸海空三自に加え、英国を中心とする日本派遣軍の幹部が集まり、作戦会議が開始された。
「まず状況を整理する。現在ロシアは稚内・根室を不法占拠している。先程外務省から入った情報によればそれぞれ稚内人民共和国、根室人民共和国を名乗り独立を宣言。ロシアはそれぞれを国家承認し、安全保障条約を締結したとのことだ。」
北海道・青森を拡大した地図にロシア軍を示す駒をシルバーは稚内・根室に置いた。
「また稚内空港にロシアは戦闘機を配置したことが衛星画像で判明しました。解析の結果、配置された機体はMiG-31と確認されました。」
「また揚陸艦や輸送機が多数の戦車や装甲車、兵員を揚陸しており、旭川を目指し進撃する可能性があります。」
「一方根室は比較的静かです。国後島や択捉島から補給を得ているようですが、大規模な部隊展開は確認出来ていません。」
陸海空の幹部が集めた情報を元に駒を置いていく。
「となると根室の部隊は半ば囮か。だがあそこをロシアに抑えられたままだと稚内へ向かうのにロシアにかなり近いところを通らなくてはならないな。だが、下手に旭川に部隊を集めれば釧路が手薄になりかねないな・・・」
「そうなると少ない兵数ながらも、よくできた牽制だな。流石だ。」
「ヒビキ、敵を褒めてどうする。」
「シルバー、これは逆に好機かもしれない。」
好機。この言葉に会議室の全員が?になる。
「稚内を奪還するには敵の背後を封鎖しないといけない。そうなると根室の敵は排除しなくてはならない。しかし、それを阻止するかのように国後島や択捉島に敵は地対艦ミサイルを配置している。」
響は国後島と択捉島敵を示す駒を配置する。
「この二島は我が国の固有の領土。ここを我が国が攻撃したとしても此方からすれば過去に不当に奪われた固有の領土の奪還であり、かつ根室奪還の橋頭保となる。」
「な、なんと・・・。」
これを聞いた自衛隊幹部は言葉が出なかった。総理は根室奪還作戦の前段階として北方領土の奪還を提案したのだ。
「しかし、それを実現するには航空優勢の確保が必須です。総理が防衛相時代に千歳と三沢の航空隊の一部を入間や横田に下げています。これでは航空優勢は取れません。」
「ああ。航空優勢は取れないな。だが、それは開戦序盤の話だ。ウクライナ侵攻の際、ロシアは大量の巡航ミサイルで攻撃した。今回も同じように無数の巡航ミサイルで千歳、三沢、八戸、大湊他レーダーサイト群を攻撃するだろう。そうなれば如何に航空自衛隊の対空ミサイル部隊でも全てを撃ち落とせないだろう。」
「それは・・・そうですが・・・。」
「であれば、開戦序盤の航空優勢はあちらに差し上げてしまえばいい。敵に可能な限りミサイルを撃たせ、更に戦闘機部隊が全く迎撃に上がらないことで損害を減らしつつ反撃に移る。」
若葉総理の作戦は大まかにこうだった。
①8/9午前0時を以て千歳・三沢・八戸の戦闘機・哨戒機部隊は可能な機体は全機離陸し、哨戒飛行部隊を除き、戦闘機部隊は松島基地、哨戒機部隊は仙台空港へ退避する。舞鶴、横須賀の護衛艦隊・潜水艦隊は出撃し津軽海峡へ向かう。
②開戦と同時にロシアは巡航ミサイルによる軍事民間問わずミサイル攻撃が行われる。
③可能な限り千歳・三沢は迎撃ミサイルで撃ち落とし、敵の降下部隊に備える。
④ミサイル攻撃が止んだタイミングで松島基地より戦闘機部隊が出撃し、三沢周辺の航空優勢を回復
⑤舞鶴ないし横須賀の艦隊を津軽海峡に展開させ、周辺のエアカバーを実施。
⑥復旧した三沢を拠点に千歳を復旧させ、航空優勢を回復させる。
⑦千歳の復旧完了後、千歳と三沢から航空隊を国後島・択捉島に差し向け徹底的な空爆を実施。根室にも空爆を行うが、控えめとする。
⑧釧路から地上軍を進撃させると共に空挺部隊を国後島・択捉島に降下し奪回する。
⑨その後陸上、海上、北方領土で根室を包囲し、根室を解放する。
⑩部隊を道央に結集し、稚内奪還作戦を行う。
「国後島や択捉島に空挺降下か・・・一種の博打だな。」
自衛隊幹部は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「それに、総理は英国の援軍はどうするのですか?」
「あくまでこの戦争は我が国の防衛戦だ。英国軍の援軍は予備軍として待機し、不測の事態に備えたい。ロシアのハゲのことだ。ろくでもない作戦を考えている可能性がある。その時は頼もしい英国軍の腕の見せ所となろう。」
総理の言葉に英国軍を中心とした派遣軍はニヤリという笑みを浮かべる。
「ミスター・ワカバ、ご期待に沿えるよう努力致しますよ。」
「ああ、よろしく頼む。」
若葉総理は派遣軍の司令官と固く強い握手を交わす。その後、細かい作戦の立案や煮詰めが行われることとなる。
「それと、対馬海峡の封鎖を行うべきだと思うが。」
「しかし、隣国韓国がどう反応するか・・・。」
「それなら事前に外務省から韓国に通告させるように指示を出そう。あと念のため中国にも出しておこう。変に中国の潜水艦が日本海に居られては困るし、仮に攻撃してしまったとしても事前通告しておけば言い訳も出来よう。」
「では、対馬海峡の封鎖には呉の潜水艦を向かわせます。総理は各国に海峡の封鎖と制限海域の通告をお願いいたします。制限海域につきましては此方に。」
海自の幕僚は総理に他国の船舶の航行の制限を要請する海域を示した地図を手渡した。
「手が早いな。では、各々、抜かりなく。」
こうして日本は国会の議決を待たずに大規模な軍事作戦を行うことに決定し、各々準備を開始した。
一方の国会では
国会議事堂 衆議院本会議
立憲国民党 原口一裕
「今日は若葉内閣に対する不信任決議案の議論であるにも関わらず等の総理本人は無断欠席し、防衛省に居座っている!! これは明らかな民主主義に対する冒とくであり、独裁主義、帝国主義、軍国主義、更にはネオナチに染まっている動かぬ証拠です!! 与党野党の垣根を越えてこの不信任に賛同し、日本の民主主義を取り戻そうではありませんか!!」
日本コミンテルン 穀田恵次
「防衛相時代から法令違反を繰り返し、自身の従姉や友達を閣僚に起用し、国会には出席せずに代わりの人間を寄越す。誰がどう見ても国会軽視、そして若葉独裁政治の始まりではないでしょうか!! 更に新たに任命した閣僚をイギリスを始めとした外国に逃がすことで仮に自身の政権を国民に倒されても海外に政権を立てられるようにしている。はっきり言いましょう!! 若葉総理!! あなたほどの売国奴はこの国にはいません!! 即刻議員辞職と内閣総辞職、そして解散総選挙で国民の民意を問うべきではないでしょうか!! 本日総理の代理で出席されている松葉官房長官、貴方からも総理に議員辞職を働きけて頂きたい!! しないのであれば貴方に対する問責決議案を提出することを検討しなくてはなりません!! 賢明な判断に期待します!!」
令和新撰組 山木太郎
「出席すらしない総理に防衛大臣。不登校で出席出来ない子なら仕方ない。でも彼らは出席出来るのにしない。それは何故か。それは簡単。国民の皆さんの視線が痛いから。国民に皆さんからの批判が怖くて怖くて仕方ないから。だからこそ国会に出ようとしない。説明責任や任命責任から逃げて逃げて、逃げ続ける。ブレーキ役の公正党も完全に壊れてしまっている。最早若葉内閣はブレーキがそもそも存在しない暴走機関車。それを止められるのは誰か。それは国民から選ばれた国会議員であり、国民の皆さんです。国民の声の代弁者である我々国会議員が取るべきはたった一つ。若葉内閣、ひいては自国民・公正政権を終わらせる事。その為にも国会議員一人一人が党の垣根を越えて協力する。それが必要です。今こそ、不信任に賛成しましょう。そして政治を変えましょう。それが国民に尽くす、政治家の使命です!!」
浪速維新の会 安達康史
「はっきり言って、この立憲、コミンテルン、社会、令和提出の若葉内閣に対する不信任決議案。茶番以外の何でもありません。我々浪速維新の会はこの不信任決議案に断固反対の立場であるということをはっきりさせて頂きます。反対の理由ですが、まずは日本コミンテルンと同じ道を取りたくなんてないということ。それに加え、若葉内閣に対して不信任をする理由が存在しないことです。ロシアによる北海道侵略により、我が国は約80年ぶりに戦争状態に突入しています。そんな状況では迅速な判断が求められ、時には法を無視しなくては国民の生命財産が守れないという事態が起こることは容易に想像できます。我々がするべきは悪戯に政争することではなく、今後同じように戦争となった場合、迅速な対応を法的に保障する為にどう改正するべきなのか、そして一致団結して侵略者に立ち向かうことではないのでしょうか? 立憲やコミンテルンは国民の敵、売国奴だ!!」
この間、総理の代理として出席した松葉官房長官は終始うんざりとした顔で聞いていた。その後採決が行われ、自国民・公正・維新・国民の反対多数で否決。また参議院で審議されていた常磐銀地防衛相に対する問責決議案は自国民・公正・維新。国民・政参党・NHKを粉砕玉砕大喝采する党の反対で否決。
「無事否決されましたが、今のお気持ちを教えてください。」
マスコミの囲みを受けた松葉官房長官は記者団に一言こう告げた。
「最悪です。」
と。しかし立憲ら野党側は松葉官房長官、若葉栗栖外務相に対する問責決議案を提出することで合意。一方その裏では若葉内閣の秘策発動に向けて着々と準備が進められていた。
「どうでした? 松葉さん?」
「最悪です、総理。」
(続く)




