チビた「えんぴつ」
小学校の時にえんぴつを転がす遊びが流行った。
六角えんぴつの各面に1から6までの数字を書いて、転がして出た数字が一番大きい人の勝ち。
そこから派生した遊びで、えんぴつ占いも流行った。
六角えんぴつの各面に適当な言葉を書く。例えば、ハッピー、残念、まあまあ、大吉、大凶、といった具合に。
小学6年生の時、友達の占いえんぴつを転がすように言われて転がした私は、出た結果が悲しくて泣いた。
ウザい
友達はその結果を見てとてもいい笑顔で、キャーキャーと楽しそうな声で喋り盛り上がっていた。
転がした後のえんぴつを指でつつき、他の面を見てもっと悲しくなった。
ダサい、消えろ、死ね、ブス、ぶりっ子
どの面にも酷い言葉が書かれていた。
えー何で泣いてんの?とか、興ざめなんですけどーとか言われたけれど、涙は止まらなかった。
泣くのを我慢しようとして苦しくなって、しゃっくりみたいなのが止まらなくなったから、急いでトイレに駆け込んだ。
授業をサボったりした記憶は無いから、きっと昼休みの出来事だったのだと思う。
「テスト、始め」
中学生になるとシャープペンシルの使用が許可されて、えんぴつはほとんど使わなくなった。
私はマークテストを解くとき用に、一本だけ筆箱に入れていた。
高校生になるとマークテストの頻度が増えたから、テストの日にはえんぴつの本数を増やすようにしている。
筆箱には、あの日からずっと入っている大切なえんぴつ。
もう随分とチビてしまったけれど、これはお守り。
英語のマークテストを上から順に解いていく。
1、5、4、3、3、2、5、1、2、3、1、2、3、ふふ、ワルツみたい。
どうしても分からない問題は飛ばし、次の問題へ。
小さなマルと中に書かれた数字を、えんぴつで塗り潰していく。
解き終わって、時計を確認し、うん、まだ時間は大丈夫。
お守りのチビたえんぴつは油性ペンで書かれた文字がギリギリ読み取れる長さ。
ころん、転がして出た数字は1。数字と一緒に、めっちゃ好き、と書いてある。
1のマルを塗り潰し、またえんぴつを転がす。
4、可愛い
そっぽを向いて耳を赤くしながらそう言ってくれる彼を思い出し、表情が緩む。
解けなかった問題はあと一つ、ころん。
5、大好き
私も好き、大好き、そう思いながら最後のマルを塗り潰す。
「試験どうだった?」
「うん、大体は解けたよ」
高校は家から近いから、大好きな彼と手を繋いで帰る。
彼があの日くれたえんぴつは、私の宝物。