塩対応の美女に告白してみた。
うちのクラスに塩田 姫子という綺麗な女子高生が居る。
切れ長の目、ふっくらとした唇、雪のように白い肌、整った鼻筋、黒くてサラサラロングヘアー、長所を上げれば枚挙にいとまがないが、人々は彼女のことを「ソルト姫」と呼んで恐れている。
いかなる時も無感情、無表情、淡白、冷淡。彼女の場の空気を一切読まない合理的で鋭い一言は、塩対応そのものであった。
ある時は
「塩田さん、皆とカラオケ行かない?」
と、誘われ
「行きません。カラオケの何が楽しいんですか?」
と返し。
またある時は
「好きです!!付き合ってください!!」
と男子に告白されると
「無理ですね。私はアナタのことあまり好きじゃありません。どちらかと言えば、いつも偉そうにしてて嫌いですね。」
と見事に男子の心をブロークンハートした。
誰かが、彼女の前では人はナメクジになると例えた。彼女の塩対応を喰らって縮こまる姿が、塩をかけられたナメクジの様に見えるのである。
中々的を射た例えである。だが僕はナメクジになる気はない。
「塩田さん。僕と付き合ってください。」
放課後、彼女が教室で一人になった時を見計らって、僕はそう言って切り出した。
「西本君、私あなたのことよく知りません。ごめんなさい。」
おおっと、あんまり認知されてなかった。毎朝必ず「おはよう」と挨拶してるのに、いきなりな塩対応だ。ちなみに僕の名前は西山なんだよな。まぁ、この程度は想定範囲。勝負はこれからだ。
「これから知ってくれれば良いですから、友達からで良いので宜しくお願いします。」
「粘りますね。一つ聞きたいんですが、私と付き合ったとして楽しいんですか?何の面白みもない女ですよ。」
「そんなことないです!!付き合えたらハチャメチャ楽しいですよ!!」
つい鼻息荒くなってしまう。いかん、クールダウンだ。
「・・・西本君は私が皆から何て言われてるか知ってますか?」
はい西山です。ここは包み隠さず正直に答えるべきだろう。
「ソルト姫です。」
「そう、悪名高いソルト姫です。私は普通に返しているつもりでも、皆さんには塩対応になってしまう。だからクラスメイトの皆は私を避けてるのでしょう?だからアナタと付き合ったところで、私はアナタを傷付けてしまうでしょう。そうなると私も気分が悪いです。双方に不利益を生むのに付きあう意味など無いでしょう。」
なるほど、確かに並の男では塩田さんと付き合うのは容易なことではない。だか私は並の男ではない。
「塩田さん、僕の名前知ってますか?」
「いいえ、一文字も分かりませんね。」
うーん、それはショック。
「ぼ、僕の名前は瓜太郎です。」
「瓜太郎?瓜って野菜の瓜ですか?」
「そうです。それで瓜太郎です。」
「・・・名付け親は正気の沙汰ではありませんね。」
「その通りです。話すと少し長くなるですが・・・」
「出来るだけ簡潔に説明して下さい。」
「は、はい。」
よし、出来るだけ簡潔にまとめるぞ。
「僕の母方のひいお爺さんがスイカが大好きで、それで死ぬ前に、次に生まれてくる子供に瓜太郎と付けてくれと遺言を残しまして。それで西山 瓜太郎なんです。名字と名前の頭で西瓜になるって寸法です。」
「なんですか?それ?そんな遺言守るなんて、どうかしてますね。西本君も最難ですね。」
心配してくれるなんて・・・感激。でも西山なんだよなぁ、今、僕が西山って言ったのに。全然直る気配がしないや。でも今はそんなことより大事なことがある。
「僕は、スイカです!!」
「いいえ、アナタは西本君です。」
「いや、スイカなんですよ!!スイカに塩かけたらどうなりますか!?」
「ん?知りません。」
「甘くなるんです!!つまり塩田さんがいくら塩対応しても、全然大丈夫です!!甘い関係を僕と作っていきましょう!!」
昨日一晩寝ずに考えた僕の口説き文句、どうか届いてくれ。
「ちょっと何言ってるか分かりませんね。」
届かない!!君に届かない!!
「クスッ、でも全然西本君はめげませんね。」
わ、笑った。笑わずに一生を終えると、もっぱらの噂の塩田さんが微笑なさった。これは僥倖かもしれませんね。
「とりあえず、友達を前提にした知り合いから関係を始めませんか?」
おぉ、知り合いにすらなっていなかったのはビックリだな。だけどこれで一歩前進だ。
「宜しくお願いします!!」
「はい、宜しくお願いします。西本君。」
うん、西本君と言われるたびに僕は甘くなるね。
僕が西山だと彼女が知る日が来るのか心配になるが、とりあえず頑張るよ。