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その5 JKは方角で迷う

 バグスと別れた後、山川空は順調に北へ北へと向かう。

 北へ北へ、とにかく北へ……


「むむ?」


 そう言ってポセイドン号を止めて考え込む山川空。

 決して、世界平和や人々の安寧について考えているわけではない。


「エルフ村と、どっちに行けばいいんだろう……」


 本来、荒野を西に越えたところにあるエルフ村に向かっていたことにやっと気づいた山川空は、珍しくむむむと悩み始めた。

 稀代の「まあどうにかなるか!」的精神の持ち主ではあるが、この選択でかなり未来が変わってしまう気がして山川空はいそいそと付近に花がないか調べ出す。


「うーむ。花びらでどっちに行くか占うのは厳しそうだなあ。花全然ないし。っていうか、そんなことに使われたら花も悲しいかあ」


 うむむむむと悩む。

 エルフ村には、有名な占い師がいる。

 ドワーフの王国ヴォヴォリアには歴史的な図書館がある。


「北へ行くか、西へ行くか……」


 そもそもいつの間にか北へ向かっていた山川空からしたら、このまま北に行く方が良い気もしないでもない。

 ただ、バグスの言っていたことをよく思い出してみると、「遥か北……」と言っていた気がする。

 遥か北、のレベルがどのぐらい遥かなのかで話は変わってくる。


「コンビニまであと2キロぐらいの感覚じゃあ、ないよねえ。うにゅにゅ」


 枝を置いて、倒れた方角……は東を指示した。

 紙切れを飛ばしてみたら、無風ですぐ落ちた。

 目を閉じてぐるぐる回ってみたら……本当に方角がわからなくなった!


「あれ!? あれれ! 目印にしてた山どれだっけ! よく見たら、全部一緒に見えてきた! しまった!」


 山川空はバグスに教えてもらった山を目印に北へ向かっていたのだが、目を閉じてグルグルしてみたところ、どれがどれかわからなくなってしまったのだ。それなりに山に囲まれた荒野だった。


「いっかーん! こりゃさすがに、いっかーん!」


 得意のまあいっか精神はなりをひそめる。なにせ、北か東かで迷っているうえに、このまま行くと北は北でも北東や北西に行ってしまうと話が変わってしまうからだ。


「ふいー。こりゃ困ったな」


 むやみに進むのは良くない気がして、とりあえず休めそうなところを探すと……少し離れたところに大きな一本の木を見つけたので、そこに向かうことにした。

 近づくと、その木は巨大なビルぐらいはありそうで、山川空はスマホが無いことを悔やんだ。


「かー、こりゃ写真撮っときたいねぇ。でっかー」


 あまりの木の大きさに、うんうん悩んでいたことがぶっ飛び、とりあえず休憩して頭を冷やせる精神状態には戻った。

 山川空は、ここで一泊するのもいいかもしれないと、テントを立て始める。

 まだ少し早いが、落ち着く場所で休むのが一番だと異世界に来てからのサバイバルライフで学んだことだ。


「ま、一晩じっくり考えよう。あんまり時間ないけど、焦るのはもっと良くないもんねー」


 夏休み中に帰るという目標があるので、時間制限はあるのだが、とはいえ焦ってくっちゃくちゃになって帰れないのが一番最悪だと山川空は思っている。


「緊急のキャンプはビバークって言うんだっけか。ま、こちとら異世界はいつだってビバークだねー」


 テントを立て、火をおこして、巨大な木の根元でビバーク。

 異世界に転移したことが一番の緊急事態である。それに比べれば、北か西かなんて、小さい小さい……。

 どうにかなるイムズが爆発し、最終的に明日決めちゃえばいいや! と考えるのをやめた山川空は鹿肉の燻製をぱちぱちと炙りながら食べる


「これ、そろそろなくなるなあ。ま、食料は色々調達してるけどー」


 そう言いながら、袋の中の燻製を……取ろうとしたが、無い。

 おかしい、あと数枚あったはずだ。山川空がふと見ると……


「あ、見つかっちまったなあ」


 顔があって、先っちょが二つに分かれてるでっけえ人参が鹿肉のくんせいを盗んでいた。


「え!? だ、誰!? 人参!?」

「ちがわい! 人参と間違われるのだけはマジでムカつくんだよ! 俺っちはなあ、泣く子も黙る、いや、泣く子も即死する、マンドラゴラ様だよ!」

「マンゴドラド……その、なんです!?」

「諦めるなよ。人の名前をよ。マンドラゴラ! 知らねえか? 俺っちを地面から引っこ抜いた時の叫び声を聞いたら、死ぬんだよ!」

「こっわ! こわっ! あっち行ってください! こっわ!」


 圧倒的な死の香りにビビりまくる山川空。


「今は大丈夫だよ。ほら、もう抜かれた後だからよ。抜いたやつ、死んでたけど」

「なんでそんなことするんですか!」

「いやこっちの台詞だよ! お前も家でくつろいでる時に、急に巨人がやってきて家から引っこ抜かれたら、ぎゃあああ! ってなるだろ?」

「まあ、なるかなあ」

「その声聞いたら、死ぬんだもんよ。こっちもたまったもんじゃねえよ。被害者なのに、加害者みたいな扱いされてよお。勝手に死ぬんだもんよお。困っちまうよ」

「へええ。なんか大変ですね」

「おま、なんか面倒になってね?」


 ジトリと睨むマンドラゴラに、山川空はひるまない。


「っていうか、鹿肉の燻製、返してくださいよー」

「鹿肉? ふうん。これ、うまかったぜ。じゃあな!」

「まてーい!」


 鹿肉をただ食いして帰ろうとするマンドラゴラを呼び止めて、がしりと掴む。


「こらこらこらこら! 食べ物を粗末にするんじゃねえ!」

「そもそも人参あんまり好きじゃないし、食べませんよ」

「人参じゃねえって! どっちかっていうと、大根に近いって!」

「まあ、根菜ってことですね。ってか、鹿肉分、ちゃんと返してもらいますよ。情報で!」

「情報?」


 今の現状をマンドラゴラに説明すると、マンドラゴラは、ほーんと気のない返事をして一言。


「南に行けよ」

「いやいやいや、北か西かで迷ってるんですって」

「いや、南のほうがいいと思うぜ。なんせ、お前と一緒で、違う世界から来たはぐれ者が作ったって噂の建造物があるぜ」

「えー! マジっすか!」

「嘘言わねえよ。こんな嘘。南の、そのドワーフのおっさんに出会った湖を越えたところに小さいが街もある。そこをさらに南に行けば、はぐれ者の建造物だ。ま、実際に見たわけじゃないけどな。聞いた話だが、俺っちはこの荒野で生まれ育ったマンドラゴラだからな。その辺りはちょいと詳しいぜ」

「あー、うーん、でもー……湖を渡るのが……迂回できますかね」


 最高の相棒、ポセイドン号はどんなに道がガタガタでもドロドロでもパサパサでも走ってくれる強者だ。だが、名前に反して水は……泥ならともかく、完全な水には手も足も出ない……名前負けとはこのことを言うのだろうか。


「あの乗り物、水はダメなのか。じゃあ、あいつごと運んでもらえばいいじゃねえか」

「運んでもらう?」

「おう。湖のワニに頼んで運んでもらうのさ。よし、美味い燻製の礼だ。俺っちが南側まで案内してやるよ。っていうかお前、方向音痴だろ」

「ぐぐ……まあ、あえて言い返しはしませんけども」


 とりあえず、マンドラゴラと一晩過ごした山川空は、マンドラゴラのナビのもと、昨日釣りをしまくった湖まで帰ってきた。


「ああ、なんだったんだろう、昨日の後半戦は」

「まあまあ、それが生きるってことだろうよ。じゃあ、ワニ呼ぶぜ?」


 そう言うと、マンドラゴラは大きく息を吸い込んだ


次回、バトルしてみようかな

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